【WMSから読み解くEC物流の動向】コマースロボティクス 中嶋直人事業部長「次なる進化はマテハン連携」

【EC物流最前線2024<WMS>】

「次はマテハンと連携するシステムの開発に着手する」と話すのは、EC領域向けにWMS(倉庫管理システム)やOMS(注文管理システム)を提供するコマースロボティクスの執行役員 SaaS事業部長の中嶋直人氏だ。中嶋氏は創業メンバーの1人であり、たたき上げで執行役員に就任した。現在はSaaS事業がメインだが、営業やCS対応、倉庫作業など幅広い業務を経験してきた。物流に携わり11年が経過した今、中嶋氏には今の物流がどのように見えているのか。

――変化の激しいEC業界だが、直近の動向はどうか?

WMSやOMSの実績ベースでいくと、アカウント実稼働数1500超となった。当社のWMSを使用する3PL倉庫も160拠点に拡大した。

WMSなどを経由し、発送された年間出荷数は1年間で4000万件と毎年堅調に伸びている。出荷件数は、契約数に加えて大口顧客と連携することで数も変わる。昨今連携した物流大手のSBSホールディングスによる影響は大きく、今年9月の出荷件数は前年同月比で140%増となっている。

ーー創業時を振り返りたい。

会社が設立したタイミングの2013年8月入社した。当時、私が行っていたのは、受注処理代行やCS代行など。現在の主力事業であるWMSやOMS、DX事業などはやっていない。事業形態を変えながらこれまで進んできた。

創業期の当社のターニングポイントは、米国のエバーノート社が日本でECをやるというタイミング。当社が運営代行のコンペを勝ち取ったことだった。そこから、EC分野にいく流れとなった。この展開が、今の当社のグローバル事業の礎にもなっている。

運営代行としてやっていたのは、販売管理とCS対応、物流の3つ。物流は別の会社が行っていた。物流は任せながらも一緒になって対応してきた。

エバーノート社の売り上げは月間で3000万円から4000万円。好調な売れ行きだったが、開始から2年程度で米国本社の方針によって事業は終了した。

ただ、この2年でECのみならず、物流管理が相当鍛えられた。その後、物流倉庫を自社で借りて、物流代行業がスタートした

<ノウハウ積んだWMS開発>

――WMSなどの提供はいつから?

2016年に、当社初のWMS「AiR Logi(エアロジ)」ができ上がった。

エアロジの開発は他の物流会社のWMSを作ることが目的で開発が始まった。しかし、汎用化が思うようにいかず、別のWMSを作る形となった。試行錯誤しながら開発に1年を要し、自社初のWMS「エアロジ」が完成した。

2016年前後は、荷主や倉庫主が使っている主要なWMSが出てきた時期でもある。当社は16年にローンチできたため、多少早くWMS市場に乗り出せていたと思う。

「エアロジ」は開発当初から、現在まで大きな設計変更などはしていない。

今となればこれは非常に重要で、初期設計が開発時点でしっかりできていた。自分たちの倉庫で使用しながら検証し、課題解決や現場の状況を把握しながらのノウハウをもとに初期設計をしっかりと作り込むことができたことが大きい。

<WMS市場はまだ8年>

――WMS市場はどのように変化してきたか?

当時、WMSという概念が浸透しておらず、販売してみると全く売れない状態が続いていた。

当時、運賃などの送料が安い時代。強いタリフ(運賃表)があれば他は不要という時期だった。システムを入れるという概念もほとんどなかった。

物流にWMSなどシステム的な概念が浸透してきたのはここ8年ぐらいの話。この間に物流が大きく変わったと捉えることもできる。

振り返ると「エアロジ」の販売は本当に苦労した。現社長の伊藤と私の二人で毎日、営業を続けていた。今は延べ1500アカウントを開設できているが、当時の目標は100アカウントで、実際の契約は30アカウント程度だった。

転機を迎えたのは18年。ECの外部環境が変化した時期でもあった。新たに定期通販のWMS「コマロボリピート」の展開が始まった。

当時、「定期通販」の市場は全盛期だった。市場があるのに、市場自体を知る物流企業も少なく、アパレルや雑貨などの業務をこなす企業が大半だった。また、定期通販に対応したWMSもほとんどなく、定期カートの代理店を行っていたベンダーが勢いをつけていた。

その後、定期通販の良さを知った物流企業が定期通販の受注を行うようになった。物流企業が化粧品や健康食品の業務を受注したほうが良いとなったのは、このあたりからだろう。

――定期通販の次はコロナが契機か?

2020年に発生した新型コロナウイルスの感染拡大を契機にEC市場自体が改めて大きく変わった。2017年に大手配送会社の運賃値上げも市場が変わったタイミングの1つ。これは、荷主と物流の双方で影響を受けた出来事だった。

一方、コロナを契機に市場が変わる前、当社の体制やWMS市場も少しずつ変化していった。なかでも、WMS最大手のロジザードが株式上場したのは当社にも良い刺激となり、WMSが一斉に広がるタイミングでもあった。

前述したとおり、当社のWMSは良い意味で初期設計がしっかりしていた。柔軟性もあったことから、荷主や倉庫主の状況が変わってもしっかりと対応できた。WMS市場の拡大と並行して当社もその波に乗り、着実にアカウント数を増やすことができた。

さきほど、述べた定期通販だが、法規制が始まってから、一気に市場がシュリンクしてしまった印象だ。これは、倉庫側にも大きな影響を与えた。おそらく、現在の定期通販市場は健全な企業だけが残っている状況だろう。法規制というメスが入ったことで市場自体も変化してしまっている。

コロナによる市場変化の良かった面は、ECに参入する企業が増えたこと。これは当社にとっても追い風で、日本のEC化率も上昇した。コロナがデジタルシフトを一気に加速させた。

当社のサービスでも、OMSなどが飛躍した。EC市場は、Shopify(ショッピファイ)などの新たなカートが台頭し、カート側と連携する支援企業も増えていった。

<今後、3PLの倒産も>

――御社のWMSデータから見えるEC動向が気になる。

顕著なのは食品系の伸びで、特に冷凍食品が伸びている。韓国コスメもセール時期などは一気に物量が増えている。一方、アパレル商材が減った印象だ。

これは推測もあるが、アパレル界隈は、これまでインフルエンサーなどによる拡散力が販促の鍵だったが、今はその勢いが通用しなくなっている。

アパレルは在庫管理を含む物流管理の難しさもある。中小のEC事業者は自社サイトで販促を強化するよりも、ECモールなどを活用した方が良いという流れが顕著で、物流もできる強みもある。

物流業界は2024年問題もあり、変化が激しい。M&Aも増えている。同時並行で、荷主に左右される物流だけあって、コロナ後の勢いが鈍化している今、3PLの倒産も多くなり、これから増える可能性もある。

<マテハン連携のWMS>

――変化が激しいEC市場と様変わりしている物流業界。間にいる御社の今後の施策は?

会社としてはAI活用をどうしていくかという点がある。

物流でみると、ロボや自動設備のマテハンの動きを注視している。

物流における自動設備やロボティクスがトレンドだが、動向がはっきりしてきた。こうした中、当社としては各社のマテハン機器をつなげるシステムの開発を進めている。

ロボティクスなどの導入よる効果が見えてきたこともある。ただ、自動設備やロボ類は、まだ点でしか見ることができない。これを線にできるようなシステム開発を進めている。これらを新しいWMSとしてローンチさせる。

また、当社は全国160拠点の倉庫と連携しているため、荷主に要望に応じて倉庫を紹介することもできる。

冷凍食品の市場はこれからも伸びるだろし、冷凍・冷蔵に関する相談が多いため、荷主のニーズに応じた対応も引き続き、強化していくつもりだ。