東京科学大学(科学大)は11月14日、自然界に豊富に存在する鉄を含む安価で高活性な鉄触媒が、酸素分子のみを酸化剤として、メタンやプロパンなど、炭素数の少ない「低級アルカン」類から有用なアルコールへと高効率で変換できる触媒を開発したことを発表した。
同成果は、科学大 総合研究院 フロンティア材料研究所の鎌田慶吾教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する材料と界面プロセスに関する全般を扱う学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。
低級アルカン類は安価で入手も容易なことから、それを直接酸化して有用な酸化生成物を合成する技術が期待されている。しかしそうした反応は難易度が高く、工業的に成功している気相酸化プロセスは3例のみである。それに対し、温和な条件で済み、生成物の選択性向上や二酸化炭素(CO2)排出量低減などの面で優位性を持つのが液相酸化プロセスだ。しかし、分離・再利用が困難な均一系触媒や、活性化された高価な酸化試薬を用いる必要があるなど、複数の課題を抱えているため、大気中の酸素分子を酸化剤として利用でき、分離回収が容易で再利用も可能な固体触媒の開発が求められていたという。
これまでの研究により、酸化酵素や金属錯体の活性点として、「Fe4+」などの高原子価の鉄種からなる酸素種が効率的に「不活性C-H結合」を酸化できることが知られていた。また、高原子価の鉄を含んだ金属酸化物は、特異な磁気・電気伝導・熱膨張特性を示すため、エレクトロニクスなどの機能性材料としても期待を集めている。そこで研究チームは今回、このようなまったく異なる研究の類似点に着目し、鉄イオンの酸化数を制御したペロブスカイト酸化物による触媒の開発を目指したという。
今回の研究では、イソブタンをモデル基質とし、酸素分子を用いた低級アルカン酸化に有効な固体触媒の探索が行われた。具体的には、鉄イオンの酸化数を制御したペロブスカイト酸化物をナノ粒子として合成し、イソブタンの酸化反応へ応用された。酸化生成物としては「tert-ブタノール」(t-BuOH)、「tert-ブチルヒドロペルオキシド」(TBHP)、「アセトン」が選択的に得られ、生成物の完全酸化によるCO2の生成はほとんど確認されなかったとする。この触媒効果の検討から、酸化物中に含まれる鉄イオンの酸化数が反応活性に重要なことが解明された。特に、主にFe4+からなる「BaFeO3-δ」や「SrFeO3-δ」などが高い触媒活性を示したとする。
次に、反応後に回収されたBaFeO3-δやSrFeO3-δの再利用が検討された。すると、Fe4+の割合が高いために不安定であり、反応後に構造が変化することから、再利用できなかったという。そこで、Fe3+とFe4+の割合を制御した「La1-xSrxFeO3-δ触媒」(以下、触媒1)の検討を行ったところ、高い触媒活性に加え、再利用も可能であることが確認されたとのこと。特に「La0.8Sr0.2FeO3-δ触媒」では、酸素過剰条件において合計収率が55%に達し、これまで報告されている均一系触媒の14~21%を大幅に上回る結果だったとした。