onsemiは11月11日(米国時間)、同社の65nm BCDプロセスを活用したアナログ/ミクスドシグナル向けプラットフォーム「Treo」を発表した。これに関する説明会がオンラインで開催されたので、その内容をご紹介したい。

onsemiは、元々Motorolaのアナログ半導体部門が分社化された形で1999年に創業された(ちなみにデジタル半導体部門はFreescaleになってNXPに買収された)が、創業当時は兎も角現在ではアナログの、しかもディスクリート部品だけを扱っていてビジネスになる訳もなく、デジタルを含めた広範な製品を取り扱う必要があることから、さまざまな企業買収などを含めた事業の拡張を図ってきた。こうした取り組みを踏まえ、2023年末には組織再編を実施。PSG(Power Solution Group)、ASG(Advanced Solutions Group)、ISG(Intelligent Sensing Group)の3つの組織に編成されたが、2024年3月には新しくAMG(Analog and Mixed-Signal Group)が構成された事が発表された。今回の発表はこのAMG向けのプラットフォームという事になる(Photo01)。

  • AMGのターゲット

    Photo01:AMGのターゲット。幅広い分野向けの製品を横断的に扱う格好となる (提供:onsemi。以下すべてのスライド同様)

  • バックエンドにあたる部分をAMGで扱う

    Photo02:センサそのものはISGだし、ゲートドライバとかはPSGの扱う製品であるが、それらのバックエンドにあたる部分をAMGで扱う事になる

具体的なAMGの製品ポートフォリオがこちら(Photo02)であるが、今回は4つのポートフォリオで共通的に使えるものとしてTreoが発表された(Photo03)。

  • 個別に対応しているとコストが掛かり過ぎる

    Photo03:そもそもAMGでは扱う電圧や信号の種類が非常に広範に渡る。これを個別に対応しているとコストが掛かり過ぎる、というあたりがプラットフォーム導入の最大の要因かもしれない

この共通プラットフォームを利用する事で、例えば車載向けであれば電動化やSDV/Zone Architecture、ADASなどで要求される、高電圧対応や高効率の電力管理、それとセンシング/通信向けのインフラを1つのプラットフォームで対応することができるようになる(Photo04)。

  • 48V対応がニーズをけん引していくことが予想される

    Photo04:高電圧は当面、電動化の部分だけではあるのだが、長期的に見ると乗用車なども効率化のために12V→48Vへの移行が控えているから、これに対応する必要があるのがTreoへの移行の大きな動機になるだろう

またAIデータセンターの消費する電力が物凄い勢いで増加しているのはご存じの通り(Photo05)であり、そうした状況にあって性能や機能を落とさずに電力効率を向上させることが求められている。

  • 例がいちいち凄まじい

    Photo05:例がいちいち凄まじい

もちろん、onsemiがAI半導体そのものを作るわけでは無いが、半導体に電力供給を行う部分はonsemiの範疇であり、このためにも高電圧(1000Wに達するチップでの消費電力を12Vで供給するのはそろそろ無理があり、こちらも48V化が待ったなしになりつつある)に対応したプラットフォームが必要である。一方、医療向けのウェアラブル機器はそもそもバッテリー駆動であるため低消費電力への要求は当然大きいが、加えてコスト削減への要求も高い。その一方で精度を落とさない(というか、精度を高めたい)というニーズは当然にあるわけで、これらの条件をすべてて叶える必要がある(Photo06)。

  • 精度とか消費電力削減だけを考えれば専用プラットフォームを開発した方があるいは効率が良いのだろうが、コスト面で著しく不利になる

    Photo06:精度とか消費電力削減だけを考えれば専用プラットフォームを開発した方があるいは効率が良いのだろうが、コスト面で著しく不利になる

こういう背景の元、投入されたのがTreoということとなる。ベースとなるのはonsemiの65nm BCDプロセスで、1V~90Vの電圧範囲(65nm CMOS+90V耐圧のDMOS)と、最大175℃の動作温度をサポートしており、その上でモジュラ構造的に必要な機能を追加することが可能となっている(Photo07)。

  • 175℃まで対応

    Photo07:もちろん175℃まで対応しているからといって、例えばすぐに自動車向けに投入できる訳でも無い(ちゃんと個別にAEC-Q100の認証を取得する必要がある)が、それでも開発時間は大幅に短縮できる

例えばADAS用の超音波センサ向けのインタフェース(I/F)の構築例がこちら(Photo08)。従来製品に比べて精度を2倍以上改善する事が可能になったとする。

  • BCDプロセスなのでDSPとかPMICをAFE/OSCやTX/RXと同一ダイに作り込めるのがメリット

    Photo08:BCDプロセスなのでDSPとかPMICをAFE/OSCやTX/RXと同一ダイに作り込めるのがメリットである。とはいえ65nmだから、あまり高い演算性能は期待できないが

あるいは血糖値計向けのAFEの例がこちら(Photo09)で、さまざまな機能を1つのダイに集約できるためフットプリントの小型化(≒低価格化)が可能で、それでいながら省電力性も確保できるとする。

  • 全体を1パッケージに収められる

    Photo09:全体を1パッケージに収められるから、トータルでのパッケージ数を減らせるのはもちろん、価格的にも下げられることになる

AI半導体向けのPoL電源コントローラの例がこちら(Photo10)で、モジュール構造であるがゆえに仕様決定からシリコンの製造まで6~9か月と短いのも大きな特徴である。

  • フォームファクターの縮小にはあまりつながらない気はする

    Photo10:個人的には、フォームファクターの縮小にはあまりつながらない(既存のPoL電源コントローラも大体同等の構造になっており、強いて言えば65nmよりももっと古いプロセスなので若干ダイサイズが大型化する程度)気はする

他にも、こんな具合(Photo11)にさまざまな製品を、モジュール構造で比較的容易に構築可能なのが特徴であり、今後も製品展開が予定されていることが説明された(Photo12)。

  • すでに一部がサンプル出荷を開始

    Photo11:このうちVoltage translators、Ultra-low-power AFE、LDO、Ultrasonic Sensor I/F、Single-pair Ethernet controllerと、Multi-phase controllerについては11日よりサンプル出荷が開始されている。Treoを採用した製品の本格量産は2025年第2四半期からとなる予定

  • カスタム品もTreoを使う事で迅速かつ低コストに投入が可能になると思われる

    Photo12:これは当然ながら標準製品である。ただカスタム品もTreoを使う事で迅速かつ低コストに投入が可能になると思われる

もっと極端な例がこちら(Photo13)。

  • FPGAでなくアプリケーションプロセッサとかでも可能だとは思われる

    Photo13:別にFPGAでなくアプリケーションプロセッサとかでも可能だとは思われる。あるいは最近の高速なMCUでもアリかもしれない

FPGAを核にしたセンササブシステムを、FPGA以外を全部Treoを使ってASSP化することが可能、という事例である。コストに見合うかどうかは若干疑問(仕様を定めるのが大変そうだし、どれだけの数量が出るのかも関係する)ではあるが、onsemiの昨今の方向性を示したもの、と言えそうだ。

ちなみにこのTreoは、同社の米ニューヨーク州イーストフィッシュキルの300mm Fab、つまり2019年にGlobalfoundries(GF)からの買収することを発表し、2023年3月に買収が完了した同社の最新Fabで製造されるという(それまでは0.25μm BCDプロセスをオレゴン州グレシャム工場で製造、間に0.18μmのCMOS+DMOSプロセスがあるが、Bipolarが含まれていないためBCDではないとのこと)。