みなさん、こんにちは! 科学コミュニケーター(SC)の三浦です。

 今年2024年の夏、未来館では地球深部探査船「ちきゅう」に関連したイベントを開催しました。期間限定展示「地震のほしをさぐる-地球深部探査船「ちきゅう」再び東北沖7000mの深部へ」や、トークイベント「みんなで深堀り! 東北沖「ちきゅう」ミッション~あなたの声が原動力に」に来場された方もいらっしゃるかもしれませんね。地球惑星科学のスケールの壮大さを感じていただけていたら嬉しいです。

 さて、わたくし三浦は、この地球深部探査船「ちきゅう」が今年9月から実施している研究航海のOutreach Officer(アウトリーチオフィサー)として、11月15日から乗船します!「ちきゅう」は海底を深く掘り、海底下の岩石を採取することができる科学掘削船です。今回の研究航海では、宮城沖約200kmの沖合で、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震のメカニズムを調べることを目的としています。

 アウトリーチオフィサーとは研究内容や成果を発信する仕事で、私は2週間の乗船期間中、研究航海の様子を中継イベントやPodcast、SNSでリポートする予定です。科学コミュニケーターブログでも船内の様子や研究について紹介していきますのでお楽しみに! 今回は【準備編】として、先日行ったとある訓練の様子をご紹介します。

ヘリコプター水中脱出訓練って何をするの?

 「ちきゅう」では研究航海中、海底の掘削作業やその準備が休みなく行われるので、調査が終わるまでは陸に帰ってくることはありません(掘削のためのパイプを海底に挿したまま動いてしまうと、パイプが折れてしまいます! )。ですので、今回私のように航海の途中から参加する乗船者は、ヘリコプターで「ちきゅう」に乗り込むことになります。

 みなさんは、ヘリコプターに乗ったことがありますか? 私は今回が初めてです! 乗船する前に、「ヘリコプター水中脱出訓練(Helicopter Under Water Escape Training including)」を受講する必要があるため、先日福岡県のトレーニング施設に行ってきました。ヘリコプターが墜落してしまったとき、取るべき行動を身に付ける訓練です。

トレーニング施設近くの、国の重要文化財にも指定されている若戸大橋。橋を眺めていたころは、あんなにキツイ思いをするなんて想像してなかった………

 まず、会議施設のような場所へ案内され、ヘリコプター乗船時の装備品や注意点、墜落したときの対応方法などを勉強します。午前中みっちり勉強したあと、午後からついに実践練習です。

「『水中脱出』って書いてあるし、少しは濡れちゃうよね」と軽く捉えていました。水着と専用のつなぎに着替え、プールに向かうと、プール中央に大きな箱が吊り下げられています。

写真の箱が、プールの中央にクレーンで吊り下げられていました。
写真提供:日本サバイバルトレーニングセンター

 なんと、ヘリコプター乗客席に見立てたこの箱をプールの中に沈め、そこから脱出するというのです。ちょっと濡れるどころではありません、全身ずぶ濡れです。

 実技訓練は全部で6回。参加者が箱の中でシートベルトを締めたあと、箱を水没させます。その後、器具を使ったり、窓を肘で外したりして脱出します。前半3回はまっすぐ下に沈みますが、後半は沈んだあとにぐるりと180度回転します。頭が逆さまになった状態から脱出するのです。

 

 訓練の内容を目の当たりにして固まる私をよそに、淡々とこなしていく他の参加者の皆さん(後から聞いたら、訓練経験者が多かったです…)。緊張していると、あっという間に自分の番がやってきました。

 まず、まっすぐに沈んだ場合の訓練を行いました。水没後、まず窓枠を握り避難口を確認します。次にシートベルトを外します。ここで焦らず、丁寧に外すことが非常に大切です。最後に窓の端を肘で外側へ強く押して窓を外し、脱出します。緊張と焦りで心拍数が上がり、息が苦しくなりましたが、何とか脱出できました。

ヘリコプター乗客席に見立てた箱が水中に沈んでいく様子。
写真提供:日本サバイバルトレーニングセンター

 次に問題の、逆さまになる訓練です。ゴーグルもなく、酸素ボンベもなく、シートベルトで固定されていて、上下逆さま状態になるのです! もう私の緊張と焦りはマックスで、もはや上下の感覚が分からなくなってしまします。焦りたくなりますが、やはり脱出の手順を1つ1つ丁寧に行うことが一番大切です。前半の訓練より水中の滞在時間が長く、本当に息が苦しかったですが、なんとか、なんとか脱出することができました。

水中から脱出している様子。シートが逆さまになっているのがわかりますか?
提供:日本サバイバルトレーニングセンター

 訓練が終わったあと、「本当に事故にあってしまったらどうしよう」と非常に恐ろしくなりました。ただ、この「恐ろしさ」を実感することが、ヘリコプターに乗るうえで非常に大事なのだと思います。訓練ではプールの水は真水ですし、数名のインストラクターが水中で待機してくれていて、波もありません。

 しかし、もし自分が乗ったヘリコプターが事故などで水没してしまったら、もっと過酷な状況です。海水で、波もあるなか、自分の力だけで脱出しなければなりません。 「油断せず、自分にできる対策をしっかり行う」ことがいかに重要なのかを痛感しました。これは、飛行機に乗るときも同様です。飛行機は安全だからと油断せず、避難口や避難の動きを確認することが自分の命を救うのだと学びました。

 

訓練の様子はこちらの動画でもご覧いただけます

準備万端! 「ちきゅう」へ出発だ!

 さて、無事に訓練を終えて、「ちきゅう」に乗船する準備は万端です。科学掘削船に乗船することも、船に長期滞在することも、人生で初めての経験。どんな出会いや発見があるのでしょうか。感動や興奮を皆さんにお伝えできるように精一杯頑張ります!

 そんな「ちきゅう」の様子をリアルタイムで感じていただけるイベント「船上から生中継!地球深部探査船「ちきゅう」とつながろう」を、11月23日(土)と24日(日)に開催します!

船上から生中継!地球深部探査船「ちきゅう」とつながろう

 わたくし三浦が「ちきゅう」から船内の様子をリポートします。未来館の会場だけではなく、YouTube同時配信も実施いたしますので、ぜひお越しください!

 では、行ってきます!

「船上から生中継!地球深部探査船『ちきゅう」』とつながろう」開催概要
  • 開催日時:2024年11月23日(土)、 24日(日) 13:10~14:00
  • 開催場所:日本科学未来館 3Fコ・スタジオ
  • 配信媒体:YouTube 23日リンク(https://youtube.com/live/BkZR6zoMIdw?feature=share)     
              24日リンク(https://youtube.com/live/7uyKWhenewQ?feature=share)
  • 料金:無料(入場料のみ)
  • 協力:国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
  • イベントHP:https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202411233728.html

参考リンク

  • JAMSTEC 「JTRACK 日本海溝巨大地震・津波発生過程の時空間変化の追跡」
    https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/exp405/index.html
  • 日本サバイバルトレーニングセンター
    https://n-s-t-c.com/



Author
執筆: 三浦 菜摘(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、展示解説や発信活動を実施。地球科学の最前線を紹介する企画展(Mirai can NOW第7弾「地震のほしをさぐる」)等を担当。

【プロフィル】
自然に囲まれた幼少期を過ごし、植物や生き物が大好きに。大学では植物の化石を研究していました。以前は宮城県の放送局でアナウンサーとして、科学トピックの特集などを担当していました。
科学を多くの人と楽しめる場をつくりたいと思い、未来館へ。

【分野・キーワード】
古植物、植物生態学