初めまして、4月から科学コミュニケーターとして働き始めた齋藤早樹子(さいとうさきこ)です。

 

突然ですが、皆さんは「未来の暮らし」と聞いてどんなことを思い浮かべますか?

私は、ロボットと一緒に暮らす未来を想像します。

そんな未来に、「ロボットがいろいろ手伝ってくれたら便利だな!」とワクワクする人もいれば、「ロボットに仕事を取られるかも……」と逆に不安を感じる人もいるかもしれませんね。

では、「どんなことをロボットにお願いしたい?」「自分の仕事でロボットにできないことは何か?」など、自分の気持ちと向き合ったことはありますか?

「科学コミュニケーター」って?

「科学を学ぶ」場から「未来をつくる」実験場へ、というビジョンを掲げる日本科学未来館には、私たち「科学コミュニケーター」がいます。来館者が抱く科学技術への期待や不安を一緒に考え、みんなで未来をつくる場を創出するのが私たちの仕事です。

 

その仕事をこどもたちに体験してもらうイベントが、毎年夏休みに開催している「1日科学コミュニケーター体験」です。昨年までは小学生を対象に行っていましたが、今年は初めて中学生も対象に開催しました。

 

中学生になると、進路選択など将来について考える機会が増えてきます。

そんな中学生に寄り添えるイベントにしたいと思い、「未来思考力」をテーマに据えました。本イベントにおける「未来思考力」とは、「未来について考える力」を指します。

自分にとってよりよい未来とは?

みんなにとってよりよい未来とは?

その実現のために今どんなことをすればいい?

そういった問いに一緒に向き合いながら、未来について考える「コツ」をつかんでもらえたらと思い企画を進めました。

 

このイベントでは、参加の中学生が3つのグループにわかれ、グループごとに常設展示「ハロー! ロボット」、「プラネタリー・クライシス」、「100億人でサバイバル」をそれぞれ担当します。展示を見て考えたことを自分の言葉でまとめ、それをもとに展示の解説や、来館者の方との対話に挑戦してもらいました。

 

イベント詳細はこちら: https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202408073523.html

自分にとってよりよい未来とは?

初めに、それぞれが担当する展示を見学し、展示で扱っている科学トピックや展示のもつメッセージについて学びました。

メモを片手に見学中

次に、展示を見て感じたワクワク感や不安を切り口に、来館者にどのように展示を説明するのか書きだします。そのうえで、自分が思い描く「よりよい未来」と、その実現に向けていま私たちが取り組むべき課題について考えました。

自分にとっての「よりよい未来」と真剣に向き合います

よりよい未来について一緒に考える

いよいよ来館者の方との対話に挑戦します。

最初は「なかなか来館者に話しかけられない!」「説明はできるのに、そこから話を続けられない!」と不安げな様子でしたが、徐々にそれぞれコツをつかみ、楽しい時間へと変わっていったようです。

「どんな防災をしていますか?」災害をテーマにした展示「100億人でサバイバル」の前で来館者に問いかけます

なかには、思ってもみなかった答えが返ってきた! という参加者も。それは、さまざまなロボットとふれあいながら、ロボットと共生する社会を考える展示「ハロー!ロボット」での一コマです。

「ハロー!ロボット」にいる、LAVOTの「ピクルス(左)」と「ぬかどこ(右)」

その参加者は「ハロー!ロボット」を見学しているとき、ロボットの数え方が「匹」や「台」など、人ぞれぞれであることに気がつきました。そして、こう考えたそうです。

「ロボットの数え方に、来館者がロボットを家族として見なしているのか、家電と見なしているのかなど、どのような存在として認識しているかが表れているのでは?」

そこで来館者に「このロボットをどう数えますか?」と問いかけたところ、多くの来館者から様々な数え方が返ってきたそうです。しかし、なかには「ロボットは数えません。名前で呼びます。」と回答した来館者もいたとか。

自分で考えた問いに対してそのような答えが返ってきたことが印象に残ったのか、控室に戻った後で私たち科学コミュニケーターにも話を聞かせてくれました。

 

未来を考えるうえで必要なこと

終了後の振り返りの時間では来館者との対話のなかで「印象に残った話」を共有してもらい、最後に「未来を考えるために必要なことは?」を参加者一人ひとりに考えてもらいました。

一番多かった意見は、「相手の意見を大切にすること、尊重すること」です。

その理由を聞くと、「未来はどんなことが起こるかわからないから、いろいろな人の意見を取り入れる必要がある」などと答えてくれました。展示フロアで対話していく中で、いろいろな思いを抱いたようです。

 また、「対話の中に質問を取り入れる」「知識を共有する」「相手に合わせて話す」など、展示フロアで対話が難しい、と感じ工夫したからこそのの意見も多く聞くことができました。

 展示フロアでの対話活動は2時間弱という短い時間でした。その中で、自分と違う意見の人に出会い、また、それが大切だと思える対話ができた、という振り返りは、私たち科学コミュニケーターにとって非常に嬉しいものでした。

 「他者を尊重すること」は、よりよい未来を実現するための重要な要素のひとつだと私たちも考えています。多様な人がいる社会で、自分がワクワクする未来は、誰かにとっては不安かもしれない。逆に、誰かにとっていい未来は、自分にとってそうではない場合もあります。様々な背景を持つ人がいる社会で、少しでも多くの人にとってよりよい未来にできるように、自分と違う意見も尊重することが欠かせません。

 自分が抱いた期待や不安と向き合い、「他者の意見に耳を傾ける」姿勢で、様々な人と対話を重ね、これからもよりよい未来について考え続けてほしいと思います。

 参加してくれた中学生の皆さん、ありがとうございました!

皆さんも、私たちと一緒に未来へのワクワクや不安について考え、対話してみませんか? ご来館をお待ちしています!

 

イベントは2日に渡って開催しました。こちらは8月7日の回の参加者のみなさん
8月10日の回の参加者のみなさん


Author
執筆: 齋藤 早樹子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、展示解説や対話活動を行う。

【プロフィル】
子どもの頃に行った科学館のワークショップやサイエンスショーをきっかけに科学が大好きに。
満天の星を見たり、人工のオーロラを見たりと学校の理科室では出会えない場面の数々に心を踊らせていました。
自分も多様な立場の人が、さまざまなかたちで科学に触れ、ワクワクできるような機会をつくりたい!と思い、未来館へ。

【分野・キーワード】
生化学