名古屋大学(名大)は11月8日、スペースに余裕のないMRIやCTの内部やその周辺において、針などの医療器具や検査用センサを遠隔操作で姿勢変更したり位置決めをしたりすることが可能であり、さらに従来よりも小型軽量で、樹脂製でも問題なく使用できるためMRIやCTへの悪影響を与える心配のない「球状歯車型空圧モーター」を開発したと発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科の部矢明准教授、同・森田希大学院生、同・井上剛志教授らの研究チームによるもの。詳細は、2024年11月8~10日に東京科学大学で開催された「第33回日本コンピュータ外科学会大会」において同月9日に口頭発表された。
注目される「画像下」治療を向上させる技術開発
MRI・CT画像を見ながら術者が病変部位に針を刺すことで各種がんの治療や病変採取などを行う「画像下治療」は、患者へのダメージが小さいため、社会的な高齢化も相まってニーズが高まっている。しかし、人が入ったそれらの装置内は手技のための空間が狭く、アプローチが困難な場合もあるという。また、MRIは強磁場による金属の吸引事故の危険性があり、CTはX線による患者と医師の被ばくリスクがある上、MRI・CTの撮像面に金属が存在する場合、ノイズにより画像信号が欠損し、画像診断が困難になるという問題があった。
そうした問題を避けるため、術者が手術室外から遠隔操作する非金属性手術支援ロボットが開発されている。しかし、従来のそれらのロボットにおける医療器具の姿勢変更機構は、複数の空圧アクチュエータを組み合わせて構成されており、構造の大型化が課題となっていた。また、姿勢測定のためにはアクチュエータの数だけセンサも必要となり、姿勢測定機構の小型化にも課題が残っていたとのこと。そこで研究チームは今回、1台のみでさまざまな方向への回転を実現する球状歯車型空圧モーターの開発を試みたとする。
歯車機構の工夫により2軸回転を実現
今回提案されたモーターでは、中心に配置された球状歯車を持つ回転子に対し、直交した2方向からそれぞれ3つの歯が連動して噛み合うことで2軸回転が実現されている点を特徴とする。直動運動は空圧シリンダと同じ原理で生み出されており、空気室の加圧により歯が球状歯車の方向へ押し出される仕組みだ。そして復動ばねが組み込まれたことで、空気室を開放時にばねの復動力により原点位置へ復帰するため、繰り返し往復動作が可能となっている。また、球状歯車においてヨー・ピッチ回転方向に対して異なる歯車形状を設けることで、2軸回転が実現されたという。
なお、ヨー方向への回転の際にピッチ方向回転用の歯が従動してヨー方向に回転することで、ピッチ方向回転用の歯と球面歯車の噛み合い関係が維持される一方、ピッチ方向への回転時には、ヨー方向回転用の歯が球状歯車に干渉しない構造となっているため、2軸同時回転が可能となっているのである。
また今回のモーターは空圧力を駆動源に回転するため、電磁力により回転する通常のモーターは異なり、樹脂などの非金属でも製作可能だ。そのため、MRIやCTでの使用で金属が及ぼす可能性のある上述したような悪影響の心配を取り除けるとする。