コロンビアで開かれていた国連・生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)は11月2日に今回の会議の焦点だった各国の生態系保全の取り組み状況を評価する指標案にほぼ合意した。しかし、発展途上国が求めていた生態系保全のための資金支援などに合意できず会合は閉幕せず、中断し採択に至らないまま日程を終えた。COP16事務局によると、再開の時期については未定だという。
日本の環境省や環境団体関係者らによると、2日は予定されていた閉幕時間を延長して夜通し議論が行われたが退席者が続出して定足数を割り、会議は異例の形になったという。COP16の議長国などから示された指標案では「30%保全目標の達成度」は生物多様性が良好な状態で保たれている地域の割合などで評価することが柱で、正式に採択されれば、各国は国内対策の状況を2026年2月までに国連に報告。同年後半に開催されるCOP17で世界全体の進捗(しんちょく)を評価することになっていた。
前回のCOP15では、2030年までに世界の陸と海の少なくとも30%を保全することなど23項目からなる国際目標に合意して、世界の生態系保全の実施に向けて大きく前進した。ただ各国の生態系保全の国家戦略に対する評価指標は定めておらず、今回のCOP16は評価指標を採択することが最大の目標だった。「再開のめどが立たない中断」という異例の事態は、気候変動枠組み条約締約国会議同様に、世界が一つになって対策を進めることが容易でないことを示している。
その一方、COP16事務局がプレスリリースなどで強調したのは、「DSI」と呼ばれる生物のDNAを調べて得られるデジタル遺伝配列情報のデータによる利益の扱いについて合意するなど成果もあったこと。具体的にはDSIを使って大きな利益を得られる企業が利益の一部を国際基金に拠出する仕組みで、合意部分の文書では「DSIを利用する企業は利益や収益の一部を拠出すべきだ」としている。
国連のグテーレス事務総長はCOP16の会期中に演説。「人類は危険な状況にある。生物多様性を破壊し、汚染を悪化させている」と強調した上で、COP15で23項目の国際目標に合意したことを引き合いに「『世界は今世紀半までに人類は自然と調和して生きる』という大胆な約束をした。私たちはこの約束を実行しなければならない」などと述べてCOP16での成果に期待を寄せた。
生物多様性とは人間を含む多種多様な生物が地球上で互いにつながっていることなどを示す概念。生物多様性条約は、これを守るために国際協力で生態系の保全と適切な利用が必要との考え方から1992年5月に採択された。しかし、その後も人間活動による環境破壊や気候変動により種の絶滅や生態系破壊が深刻化している。
国際自然保護連合(IUCN)はCOP16会期中の10月28日に世界の絶滅危惧種をまとめたレッドリストの最新版を公表。「登録された生物種約16万6000種のうち約4万6000種以上が絶滅の危機に瀕している」と生物多様性の危機を強調した。
IUCNは今回レッドリストの更新作業で生物種の中でも今回世界の樹木の保全状況を初めて調査。約4万7000種の樹木のうち少なくとも3分の1に当たる約1万6000種が絶滅の可能性がある、と指摘した。そして樹木は生命の営みに不可欠な役割を果たしているとし、樹木の喪失は多くの動物や植物にとって脅威になる、と警鐘を鳴らしている。
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