東京大学(東大)とダイセルは、次世代の「結晶スポンジ」材料を探索する中で、細孔内の環境が親水的で、かつ物理的・化学的に安定な耐溶剤性、耐真空性のある新しい結晶スポンジを見出したことを発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 応用化学専攻 社会連携講座「統合分子構造解析講座」の佐藤宗太特任教授(分子科学研究所 客員教授兼任)、ダイセル 研究開発本部 評価解析センターの権藤圭祐研究員、同・足立知子主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、11月7日~8日に新宿区の早稲田大学国際会議場で開催される有機合成化学協会主催の「第125回有機合成シンポジウム」にて口頭発表される。
「絶対配置」は、不斉中心に結合した置換基の空間的な配置のことで、活性評価を行う際には同配置の決定が重要とされる。同配置を含む分子構造は、解析対象分子を結晶化させ、その上で単結晶X線回折法を用いて解析するのが信頼性の高い手法と考えられているが、化合物を結晶化しなければ解析ができないため、「単結晶X線構造解析の100年問題」といわれている。しかも結晶化は化合物量が微量だと困難であり、またそもそも液体や気体の分子は結晶化しないといった問題もある。
そうした中、その結晶化工程を必要としない革新的な構造解析技術として2013年に発表されたのが、東大の藤田誠卓越教授らが開発した“結晶スポンジ法”だという。内部にナノメートルサイズの孔を有する多孔性の結晶(金属有機構造体:MOF)を作製し、そのナノ空間に解析対象分子を染み込ませて捕捉することで分子が規則正しく配列し、単結晶X線回折法により分子構造を決定できるという手法である。
この結晶スポンジ法を中核技術の1つとして用いて、分子構造解析に関連した多くの分野の企業とともに産学連携による研究を進めているのが社会連携講座「統合分子構造解析講座」であり、同講座では、重要な研究課題の1つとして、結晶スポンジ法が対象にできる分子の範囲を拡大することを目的とした新たな結晶スポンジの開発も進められてきた。今回の研究は、そうした活動を踏まえ、有機配位子にアミド基を導入した新たな特徴を持つ結晶スポンジを開発することにしたという。
今回開発された結晶スポンジは物理的かつ化学的安定性が高く、細孔環境が従来のものとは反対の親水性であることから、極性が高い分子に適用できるようになったことを大きな特徴とする。