ブランドのEC(ネット通販)展開が当たり前になる中、コンテンツの活用法が進化している。ECサイトのコンテンツは、商品画像に始まり、モデル着用画像やUGC(ユーザー生成コンテンツ)、スタッフ投稿、動画とバリエーションが広がってきた。アパレルブランドなどを中心に、それらのコンテンツをECサイトのトップページや専用ページだけでなく、商品詳細ページに配置し、ユーザーの回遊率や転換率を高める取り組みは、もはや当たり前になりつつある。
最新のトレンドでは、それらのコンテンツを商品との出会いを生むUI(ユーザーインターフェース)で提供したり、SNSのフィードを見ているような感覚でコンテンツを見せたりするブランドが登場している。コンテンツが豊富になり、そこにAIを駆使してコンテンツを効果的に見せるツールが登場してきたことで、このようなUIを導入しやすくなっている。
ブランドECが一般化することで、同じような商品は価格で比べられやすくなっている。特にAmazonや楽天などのECモールでは、ユーザーが効率よく比較できるようなUIとなっており、価格競争から逃れることはできない。
ブランドのファンが集まる自社ECサイトでは、商品を簡単に探せる検索機能は備えつつも、ブランドや商品の魅力が伝わるコンテンツと”出会える”見せ方を工夫することで、”価格”ではなく、”価値”を伝え、脱安売りを図りたいブランドが増えている。
バリエーションの広がったコンテンツを効果的に活用し、ユーザーの感性を刺激する商品や使い方、動画と出会える機能を強化することで、顧客体験価値(CX)を高め、ファンを増やす戦略だ。
ブランドの自社ECサイトでは、今後もコンテンツを通してブランドの魅力を伝える場として、UIがどんどん進化していくだろう。今回はその進化の最前線を見ていきたい。
<「ユニクロ」もSNSのようなUI採用>
国内最大手のユニクロは、ECサイトのトップページで全画面表示の画像や動画を上下にスワイプ(画面に指を置いて任意の方向に滑らせる動作)させる形で次々と見せている。このスワイプでコンテンツを閲覧するUIは、インスタグラムやXなどSNSのUIのようだ。
▲「ユニクロ」のECサイトのトップぺージではコンテンツをスワイプして表示している
かつては雑誌やカタログをパラパラとめくり、新しい情報と出会っていたように、現代のユーザーはSNSのフィード画面でコンテンツをスワイプして、新しい情報と出会うのが”当たり前”になっている。そのユーザーの行動パターンに、コンテンツが豊富になってきたECサイトでも対応する動きが顕著になってきた。
「ユニクロ」を愛用する筆者もかつては、毎週金曜日に更新される値下げ商品の情報ばかりを追っていたが、このUIの変更により、「『Uniqlo U』の新作が発表されたんだ」「『UNIQLO : C』ってメンズも展開していたのか」と新たな気付きを得て、通常価格で商品を購入する機会が増えている。
<バロックジャパンリミテッド、インスタの発見タブ同様のUI採用>
ECサイトでトレンドとなりつつある、CX向上を図るためのコンテンツ戦略を実践する3社の事例を詳しく見ていきたいと思う。
まず最初は「MOUSSY」「SLY 」「rienda」などのファッションブランドを展開するバロックジャパンリミテッドのECサイト「SHELTTER WEBSTORE」だ。
以前の「SHELTTER WEBSTORE」では、検索ページで最新投稿やアクセスの多い投稿を表示していた。新たに機能をアップデートすることで、検索ページの「商品を見つける」というタブをタップすると、ユーザーの閲覧行動に合わせて写真や動画を表示するUIが出てくる。
▲検索ページの「商品を見つける」でコンテンツを一覧表示(左)。ブランド別のコンテンツ一覧も表示できる(中央/右)
気になるコンテンツをタップすると、拡大表示され、そのコンテンツで紹介しているアイテムの一覧も確認できる。下にスワイプすると、次々と新たなコンテンツを見ることができる。このUIはまさにインスタグラムの発見タブのUIと同様だ。
このUIであれば、普段、ブランドの配信する動画を見ないユーザーも、すき間時間になんとなく動画を視聴して、ブランドのスタッフの話に耳を傾けたり、着こなしの提案から商品の魅力を知って購入するといった新たな体験をする可能性は高いだろう。
購入に至らなくても、商品画像やモデル画像、スタッフ投稿、動画を一覧で確認することができるため、雑誌やカタログを見るような感覚で、ブランドの最新情報を眺めるユーザーは増えそうだ。
<「RANDA」、スタイリングと動画をまとめて表示し回遊率4倍>
ジェイ・ビーが展開するレディースシューズを販売する「RANDA」では、検索タブの「スタイリングを見る」をタップしたり、トップページの「RECOMMEND」から入ると、動画やスタッフのスタイリング投稿などを一覧で閲覧できる。
以前から店舗スタッフが投稿する「STAFF STYLING」とInstagramライブのアーカイブを「LIVE」として、それぞれ別々に表示はしていたが、「RECOMMEND」では、ユーザーに合わせて「STAFF STYLING」の画像と「LIVE」の動画、カタログの画像を組み合わせて表示している。
▲「STAFF STYLING」(左)と「LIVE」(中央)のコンテンツを組み合わせて、ユーザーに合ったコンテンツを「RECOMMEND」(右)で表示
「RECOMMEND」は「STAFF STYLING」のみの投稿と比べ、商品ページの回遊率が約4倍に高まるなど、高い成果を上げているという。
タイパ(時間対効果)を気にする現代のユーザーにとっても、移動中などふとした瞬間にブランドのコンテンツをまとめて確認でき、気になる商品やトレンドを手軽にチェックできる点が喜ばれるだろう。
<SHIPSは新ブランドで動画を多様したUIを提供>
SHIPS(シップス)が2023年にリリースした、多忙な働く女性に寄り添うブランド「quaranciel(カランシエル)」のECサイトにおけるUIは斬新だ。
ブランドサイトのスマホのトップページをスワイプしていくと、自動再生する動画コンテンツが次々と表示される。
▲スマホページでは自動再生する動画コンテンツが次々と表示される
PCサイトのトップページではページの右半分をスクロールすることができ、その枠で自動再生する動画コンテンツを表示している。
▲PCサイトでは右半分をスクロールすることで動画コンテンツを確認できる
メインターゲットである「多忙な現代の働く女性」が、手軽に多くの商品を見ることができるページとなっている。
動画コンテンツでは、「1週間コーデ」「最旬ニット3選」などユーザーが気になる情報をまとめて紹介している。動画の下部には、紹介した商品を一覧で確認でき、気に入った商品はすぐに購入できる。
<「visumo」の新機能がブランドのCX向上をサポート>
今回紹介したバロックジャパンリミテッド、RANDA、SHIPSは、ビジュアルマーケティングプラットフォーム「visumo(ビジュモ)」が新たに提供したAIでコンテンツをレコメンドする機能「visumo recommend(ビジュモ レコメンド)」や、SNSのようなユーザー体験を自社サイトへ実装できるテンプレート「フィードモーダル」を導入している。
これまでこのようなUIを導入するためには、高度な開発技術や、経験豊富なエンジニアが必要だった。しかし、「visumo」のようなツールが登場したことで、ユーザーの変化に合わせたUIでコンテンツを表示できるようになった。
ブランドが自社ECサイトにおいてスタッフ投稿やUGC、動画を配信することが”当たり前”になりつつある中で、次のフェーズではそのコンテンツをSNSのようなUIで見せることが”当たり前”になりそうだ。
ECサイトの売り上げ大半がスマホ経由になる中で、ECサイトのUIは、SNSなどと比べて進化が遅れていた。ここにきて「visumo」が、SNSのようなUIを手軽に実現する機能を本格リリースしたことで、ECサイトのUIが一気に進化する可能性がある。
広告のCPAの高騰や、ECの競争加熱による価格競争などが進んでいることで、自社ECサイトで顧客との結びつきを深めたいブランドは増えている。この新たなUIは、顧客体験価値(CX)を高めたいブランドにとって、画期的な一手となるだろう。
■バロックジャパンリミテッド「SHELTTER WEBSTORE」
https://www.ec-store.net/sws/r/rSWS
■ジェイ・ビー「RANDA」
https://www.randa.jp/shop/default.aspx
■SHIPS「quaranciel」
https://www.shipsltd.co.jp/label/quaranciel/
■ビジュアルマーケティングプラットフォーム「visumo」
https://visumo.asia/