10月1日に就任した石破首相は、どんな経済政策を推進するのだろうか。就任直後の言動から考えると、意外にリアリストだと感じられる。例えば、就任後すぐに岸田前首相の政策を引き継ぐと述べた。具体的には、前首相が割と成功していた「賃上げ=デフレ脱却策」や資産所得倍増については、自分も推進する旨を表明している。あえて独自性を経済政策で出そうとはしなかった。これは求心力を保つ上で賢明な選択だと思う。
そうした踏襲とは別に、地方創生という看板も持っている。問題は、こちらの看板政策をどう実現していくかという道筋である。今さら、防災目的で公共事業を大規模化させて、地方に購買力をばらまくことはしないだろう。地方創生は、そんな対応ではうまく成功しないと知っているからだ。やるのならば、もっと構造変革に資する対応だろう。この辺のアイデアをどの位持っているのかが試される。
もしも、筆者ならば何をするかという立場で、地方創生の具体策を述べると、①インバウンドの地方分散と、②リモートワークによる地方の職場づくりを挙げる。2024年前半の訪日外国人消費は、年間ペースで7兆円前後まで増えている(23年実績5.3兆円)。これを地域別にみると、濃淡がかなりはっきりしている。北海道、東京、山梨、京都、大阪、沖縄などは需要取り込みに成功している。そして、オーバーツーリズムさえ問題視されている。これをもっと九州、四国、中国、北陸、東北へと分散すると、地方の所得増が見込める。そのためには都道府県単位でものを考えるのを止めて、ブロックごとに観光バリューチェーンを築くことが大切だ。石破首相は、鳥取県の観光産業に詳しいはずだ。その知見を横展開して、他県との連携の利益を追求していく。地方の所得増は、都市への人口流出を弱める効果もあろう。すると、少子化防止にも役立つ。
もうひとつの②リモートワークの推進も、地方に仕事をつくり、人口流出を弱める。過去4年間は、コロナ禍でビデオ会議システム(ZoomやTeams)が急激に普及した。そして、リモートワークを前提とする企業が増えて、その中に地方に拠点を設立するところも出てきた。働き手の確保と賃金水準が相対的に割安だからだ。
この流れは、地方が都市から購買力の移転を受けることになる。近未来では、海外企業と取引するリモートワーク企業が増えて、海外から地方への購買力の移転が促されるだろう。チャットGPTの最新版は、音声入力に対する反応速度が人間並みになり、同時翻訳の会話が近いことが直感できる。これも地方の若者が地元で高い所得を稼げる道筋をつくる。
この①と②を軸にすれば、石破首相が肝入りとして掲げる地方創生はかなりの成果を上げられるのではあるまいか。さて、石破首相のお手並みを拝見したい。