サイエンスは、将来的な民間人の宇宙滞在を見据え、有人宇宙システム(JAMSS)と共同研究を行うと10月31日に発表した。宇宙空間の生活の課題である「入浴」に関する技術開発を行い、微小重力空間で使われる「宇宙シャワー」を実現。2030年頃のサービス提供をめざす。
これまで国際宇宙ステーション(ISS)などで宇宙空間に滞在する場合、使える水の量が限られており、シャワーや風呂といった設備もないためドライシャンプーやぬれタオルによる拭き取りでの対応を余儀なくされてきた。しかし今後、宇宙旅行者が増えると、「入浴」にまつわる衛生的な生活の確保が大きな課題として浮上する。
そこで、節水シャワーヘッド「ミラブル」シリーズを手がけるサイエンスが保有するファインバブル技術と、ISS日本実験棟「きぼう」における有人運用・インテグレーション技術を担ってきたJAMSSが協力。両者の強みを活かし、宇宙環境に置けるQOL(Quality of Life:生活の質)を向上するサービスを担うことをめざす。
共同研究の具体的な中身として、ISSの微小重力環境下において有用かつ安全、衛生的な「節水型シャワー」の技術的実現性を検討。開発・技術実証を行ったうえで、2030年前後に商業宇宙ステーションなどでのサービス提供をめざす。現状想定しているのは、立った状態で入室し全身でシャワーを浴びるカプセル形状のものになる模様だ。
サイエンスがもつミラブルの技術は、少ない水で洗浄できるという独自の“ファインバブル”を効果的に活用する水流制御を軸としている。地上でも節水は大切だが、水資源が限られる宇宙環境ではさらに重要な項目となる。しかし宇宙旅行者は地上と異なる大きな制約を受け入れなければならず、今後民間利用を進めて行くなかで重大なハードルとなる。
今回の研究では、“シャワーを浴びる行為”にまつわるさまざまな課題を解決することで、宇宙での生活者がより快適な時間を過ごせるように機能性・安全性・衛生面等の試験を実施していくとのこと。
なお、サイエンスはこれまでにも微小重力環境でのシャワー機能の研究を行ってきており、2023年11月には沖縄・宮古島において、バルーンを使った成層圏からの模型落下試験を実施している。
この実験では、ミラブルの吐水機構とポンプなど水を循環させる仕組みを備えたカプセルをシャワーブースに見立て、バルーンを使って地上約3万メートルまで上昇。バルーンが破裂したあと、落下中に発生した微小重力状態(疑似無重力)において、シャワーからの吐水の状態観察や、吐水後の水の吸引に成功したとのこと。
同日都内で報道陣向けに開催された発表会には、元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏が登壇。宇宙生活における課題や今後の期待について語った。
実際の宇宙生活においては、スペースシャトルや現行の宇宙機、ISSのいずれも前述のように風呂やシャワーといった入浴設備を設置していないため、山崎氏は「体はウェットティッシュのような厚手のタオルで拭き、髪の毛はドライシャンプーで洗っていた」と振り返った。
また、船内は飛行機と同様に常時エアコンがかかっているため、温度は一定だが10〜20%の低湿環境になるといい、「空気が乾いているのに、それを身体が補おうとして肌が脂ぎってくる」(同氏)という現象に悩まされていたそうだ。
今回のサイエンスとJAMSSによる共同研究の発表を受けて、山崎氏は「少ない水の量で常に清潔を保つのは(全身を洗う)お風呂だけでなく、手を洗うなど局所的に(洗浄を)行う場合にも非常にありがたいなと思う」とコメントし、期待感をにじませていた。