農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は数十年にわたり農業の現場や食品から集めてきた約6000株の乳酸菌について、外部から検索や情報収集ができるデータベースを公開した。2025年度にはゲノム情報を1000株まで拡充することを目指すなど、今後も情報を増やす。乳製品や漬物といった食品だけでなく、飼料づくりなども含めた発酵産業を支援する基盤としての役割が期待できる。
乳酸菌はヨーグルトやチーズ、漬物、酒、味噌・醤油など発酵食品の製造に利用されている。農研機構では乳酸菌の探索・収集活動をしており、漬物やチーズなどの発酵食品、牧草や牧草を乳酸発酵させたサイレージに関する知見がある。また、健康維持における乳酸菌と腸内環境の関係にも注目が集まっている。
データベース作りを主導した農研機構食品研究部門食品加工・素材研究領域の木村啓太郎研究領域長(応用微生物学)によると、産業利用のために乳酸菌を選び、特定の株を分離して持続的に培養するにはノウハウが必要だ。乳酸菌を利用した産業への新規参入における乳酸菌の選抜という障壁を解消するため、データベース作りに着手した。
データベースには9月30日時点で31種189菌種の6106株の乳酸菌を収載している。菌種名や菌株番号などを入力するほか、塩辛や漬物、ぬか床、味噌といった発酵物から野菜や果実、きのこといった食品、植物、動物にいたる分離源を指定して検索することもできる。
菌や株の名前が分からなくても、微生物の性質や食品製造時に重要視される生理生化学(5項目)や牛乳や豆乳を固まらせる機能の有無など発酵特性(5項目)、抗菌性や免疫調節能など機能性(3項目)を設定すれば、該当する菌があるか検索可能だ。
例えば、植物性食品に由来するものとして分離源を野菜類とし、豆乳の凝固性があること、代謝物としてGABAやオルニチンが生じる乳酸菌であることを条件に検索すると、菌種名と分離源が181株で列挙される。ただ、ゲノム情報など、知的財産などに関わり一般公開していない情報で絞り込みや閲覧をするには、利用者登録をする必要がある。
データベースの利用により、乳酸菌をすでに産業利用している企業などには、現状の発酵で生じている課題を解決できるよりよい株を見つけるきっかけになるという。
廃棄食品を乳酸菌で発酵させて食品ロス削減する、複数の乳酸菌の株を用いて漬物の発酵具合を調整する、抗菌性がある乳酸菌発酵した牧草を飼料にして家畜への抗生物質投与を減らす、といった新しいアイデアを実現するためにデータベースを利用できる可能性などがあると木村領域長は言い、「データベースが発酵関連産業の新規参入に役立てばうれしい。斬新な乳酸菌発酵による事業を行うスタートアップ企業などが出てくれば、株提供だけでなく、分離や培養といったノウハウを含めて技術支援もしたい」と話す。
データベースは、国の「研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム」の一環で作製し、10月2日に農研機構が公開を発表した。
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