JR貨物によるデータ改ざんなどの不正問題が明らかになったことで、トラック輸送から鉄道貨物などの輸送網へのシフトを進めてきた「モーダルシフト」の機運醸成に暗雲が漂っている。車輪に車軸を圧入する作業におけるデータ改ざんは、その後に国交省が各社に指示した緊急点検の結果、全事業者の約3割に相当する50事業者の車両で確認された。
データ改ざんを行っていた鉄道各社に対して鉄道局は、次々に立ち入り検査を実施。斉藤鉄夫国交相は一連の鉄道事業者の不正について、「鉄道輸送の安全確保の仕組みを根底から覆すものであり、極めて遺憾だ」と述べており、厳正に対処する構えだ。
車両組み立て作業に問題があったのはJR貨物に限らない。ただ、深刻なのは実際に宅配便に遅れが生じるなど、JR貨物が請け負っていた貨物で配送への影響が出たことだ。同省は、トラック輸送などの物流事業者に対して代替輸送手段の確保に取り組むよう要請した。
不正問題の発覚前から、「鉄道貨物での輸送は大雨など災害に弱い」(物流会社関係者)との声は根強かった。トラック輸送の利便性を感じている荷主は依然として多いものの、今春のドライバーの残業規制強化や脱炭素化に向けた必然性に迫られて鉄道貨物を利用する動きが進みつつあった格好だ。しかし、物流への影響が幅広く及んだことを受け、「鉄道貨物の重要性が減った」(国交省幹部)との厳しい声も聞こえてくる。
ドライバー不足対策として、既に一部の荷主企業や物流事業者は共同輸送の仕組みづくりに着手。省人化に向けたシステム導入や、物流施設の配置見直しなどの仕組みづくりも始まった。JR東日本など旅客輸送を担う鉄道事業者は新幹線を活用した荷物輸送を拡大しようとしており、航空会社が貨物の取扱いを増やそうとする動きもあるほか、今後は自動運転トラックによる輸送事業も始まる見込みだ。
JR貨物は現時点では鉄道貨物の唯一の担い手ではあるものの、さらなるサービス改善や安定輸送を追求できなければ、物流業界における存在感は薄まりかねない。