日鉄とミタルが米合弁を解消へ USスチール買収へ苦渋の決断

両社のインド合弁には「影響なし」と日鉄

 米国では競争、インドでは協調という関係を維持することができるのか─。

 日本製鉄(今井正社長)は10月11日、アルセロール・ミタルとの合弁会社で、米アラバマ州で自動車用鋼板を製造するAM/NSカルバート社の株式50%を保有する米子会社の株式を全て、ミタルに譲渡することを発表した。ただし、この譲渡は、日鉄が現在協議を進めているUSスチール買収が成立した場合のみ行われる。

 この合弁を解消する理由は、ひとえにUSスチール買収成功のため。日鉄はUSスチール子会社後には、自社の技術を活用できるという強みをアピールしている。自動車用鋼板はその1つだが、これはミタルとの合弁でも手掛けている事業で、米競争法上の懸念が言われていた。

 今回の合弁解消で、その懸念を払拭したい考え。日鉄常務執行役員の岩井尚彦氏は「規制当局から承認を適時に取得するために最も確実な対応と判断し今回の決定に至った」と話す。

 譲渡価格は1ドル。だが、持分譲渡実行で、約2300億円の事業再編損失を計上する見込み。そのうち、現金の支出を伴う損失は1000億円程度に上る。これをUSスチールの収益を取り込むことでカバーするとしている。

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 この合弁は14年に、独ティッセンクルップから買収したもの。ミタルのホームマーケットで、同社が主に事業リスクを負い、日本製鉄は技術や商品、日系企業へのアクセスで貢献するという関係。かつて買収を巡って緊張関係にあった両社がパートナーを組んだ形だった。

 現会長の橋本英二氏が進めてきた海外戦略で、ゼロからの高炉立ち上げでなく、売却が検討されている工場やメーカーの経営に参画し、現地の「インサイダー」を目指したもの。

 同様の考えから、インドでも同国鉄鋼4位のエッサール・スチールを共同買収。今回の米合弁解消は「インド事業に影響を及ぼすものではない」(岩井氏)としながらも「ミタルにとって必ずしもウェルカムでない話」と話す。残る成長市場は米国とインドと見定めての日鉄の動き。

 USスチール買収の可否は大統領選後に出る。米国でミタルとの新たな競争が始まるか。