日本オラクルは10月24日、クラウドに関するイベント「Oracle Cloud Forum」を開催した。本稿では、取締役 執行役 社長 三澤智光氏による同イベントの基調講演の模様をお届けする。

  • 日本オラクル 取締役 執行役 社長 三澤智光氏

三澤氏は「当社の会計年度は5月に締まるが、その時点で、RPOが990億ドルでと、すでに受注残を990億ドル持っている状態だった。その内訳はほとんどがクラウドであり、990億ドルが1年かけて積み上がると、オラクルのクラウド事業はとんでもないことになる。この動きが株価を上げている」と、同社のクラウド事業が絶好調であることをアピールした。

三澤氏は「当社のクラウドは10年遅れた分、10年後のテクノロジーを活用している。これがハイパースケーラーとの違い」と述べ、ハイパースケーラーとは異なる成長の5つのポイントから、同社の最新動向について説明した。

AI:AI向けスーパーコンピュータ「OCI Supercluster」提供

三澤氏は、「正直なところ、一般の人にとって、オラクルとAIは結び付かないのでは」と切り出したうえで、AIインフラの最新製品として「OCI(Oracle Cloud Infrastructure) Supercluster」を紹介した。

同製品はOracle Databaseとアプリケーションの統合プラットフォームで、9月に開催された年次イベント「Cloudworld2024」で発表された。最大131,072基のNVIDIA Blackwell GPUを搭載可能で、2.4ゼタFLOPSのピーク性能を実現する。「OCI Supercluster」は、OpenAI、Microsoft、NVIDIA、cohereなど、さまざまなAI企業に利用されている。

三澤氏は、「すべての生成AIメーカーの超高速プラットフォームを提供することで、世の中が生成AIを迅速かつリーズナブルに利用できるようにする。これがわれわれの戦略の一つ」と語っていた。

  • OCIを利用しているAI企業

専用クラウド:3ラックから利用可能な「OCI Dedicated Region」登場

OCIは、パブリッククラウド、Dedicated Region、Oracle Alloyという3つの展開・運用モデルを提供している。それぞれ設置、設計、運用の主体が異なる。Dedicated Regionは顧客のデータセンターに設置され、設計と運用はオラクルが担う。Oracle Alloyはパートナーが設置と運用を担い、設計はオラクルとパートナーが共同で行い、パートナーは独自のカスタマイズが可能だ。

三澤氏はDedicated Regionの最新情報として、3ラックからという小規模かつスケーラブルなサイズで利用可能になったことを紹介した。「最低限のフットプリントが小さいということは、コストも安いということ。価格に転嫁できるのでこれも強みとなる」と、同氏は述べた。

「Oracle Alloy」はNRIと富士通が導入することを発表しているが、三澤氏は「地政学のリスクが高まる中、サービス提供者、データ主権、運用主権すべてを日本企業が持てる。新しいクラウドの提供形態をオラクルが提供する」と、「Oracle Alloy」の強みを語った。

前日には、NTTデータと日本市場におけるソブリンクラウドのサービス強化に向け協業することを発表した。協業の下、NTTデータは「Oracle Alloy」を自社のデータセンター内に導入し、金融機関向けクラウドサービス「OpenCanvas」を拡張し、データ主権要件への対応を強化する

基調講演に、NTTデータ 執行役員 テクノロジーコンサルティング事業本部長 新谷哲也氏が登壇し、協業について語った。基調講演の後には記者会見も開催された、両社の取り組みの詳細は、「NTTデータはなぜOracle Cloudをソブリンクラウドとして提供するのか」で確認されたい。

マルチクラウド:進むハイパースケーラーとの連携

マルチクラウドについては、日本オラクル 専務執行役員 クラウド事業統括 竹爪慎治氏が説明した。2020年からマルチクラウドの取り組みを開始し、マイクロソフトと、Oracle CloudとMicrosoft Azureの間のクラウド間直接インターコネクトを確立し、シームレスなサービス連携を実現している。

  • 日本オラクル 専務執行役員 クラウド事業統括 竹爪慎治氏

連携は、マイクロソフトのあと、Google、Amazon Web Servicesと広げてきた。竹爪氏は、マルチクラウドのオファリングの価値は2つあるとして、次のように説明した。

「1つの価値は柔軟性で、Oracle Databaseを最適な場所で利用することが可能になる。もう一つの価値はあらゆる場所でイノベーションを実現できること。例えば、データをマイクロソフトのAIと連携することで、新たなサービスをして付加価値を提供できる」

竹爪氏は「マルチクラウドの取り組みはマイクロソフトが最も進んでいる」 と述べ、日本マイクロソフト 業務執行役員 大谷健氏を壇上に招いた。大谷氏は、「60リージョンを展開するMicrosoft Azureはハイパースケーラーの中でも規模が大きい」と語った。

  • 日本マイクロソフト 業務執行役員 大谷健氏

大谷氏は、Azureの事業について「10年行う中で、かなり拡大した。その中でAI時代を迎えたが、Azure OpenAIの影響で生成AIの利用が拡大した時期をシーズン1と呼んでいる。現在、生成AIの本格活用に入っており、データが大事という認識が確立されている」と説明した。そして、オラクルとの協業について、次のように語った。

「お客様のミッションクリティカルなデータはオラクルのデータベースに入っている。これが重要。われわれは、Azureでイノベーションを起こしているユーザーの重要なデータを手元に持ってくるために取り組んでいる。AI時代だからこそデータが重要であり、ミッションクリティカルなものをできるだけ近づけることが大事」

このほど、日本(東日本)でMicrosoft Azure上のOracle Databaseサービス「Oracle Database@Azure」の一般提供が開始されたが、竹爪氏は「国内で冗長化したいというニーズが出てくるので、西日本でも来年桜が咲くころに提供したい」との展望を語っていた。

ミッションクリティカル:インフラからアプリまで包括的にカバー

続いて、ミッションクリティカルについては、三澤氏が説明を行った。同氏は、「ミッションクリティカルシステムの要件である、高処理性能、低遅延(専有ネットワーク)、クラスタリング、ステートフル(データベース接続)を満たしたデータベースはあるか」と問いかけ、Oracle Databaseはこれらを満たしているとして、ミッションクリティカルなシステムのデータベースであることを強調した。

三澤氏は、他社のクラウドデータベースはスケールアウトでのみ拡張するのに対し、OCIはスケールアウトとスケールアップで拡張できると述べた。加えて、最大CPU数が4032コア、最大メモリサイズが44TB,最大IOPSが4480万であるうえ、計画停止もアプリケーション改修も不要だとして、そのアドバンテージをアピールした。

加えて、OCIはコストパフォーマンスも高いという。セキュリティはコアに埋め込まれており、他社がオプションで提供している機能も無償または標準で提供している。三澤氏はOCIのコンピュート、ストレージ、ネットワークのすべてにおいて他社よりも低価格で提供していることを紹介した。

さらに、Oracle Autonomous Databaseについても、「処理単価が安いことに尽きる。拡張性も高く、他社製品に対し、CPUは30倍、ストレージは50倍の最大容量となっている。生成AI、マイクロサービス、グローバル分散データベース、マルチモーダル対応といった豊富な機能を備えるデータベースを低コストで利用できる」と三澤氏は絶賛していた。

アプリケーション(SaaS):業務別の専用AIエージェントも提供

Oracle Cloud Applicationsについては、「Application Unlimited」という戦略の下、2035年までサポートを提供することをコミットしているという。「ライバルとは違い、アップグレードや買い替えを強制しない」(三澤氏)

三澤氏は「アプリの世界もクラウド、AIを取り入れていく時代。クラウドの次はAI、AIが業務アプリを大きく変える」と述べ、Oracle Cloud ApplicationsにおけるAI対応について説明した。

Oracle Cloud Applicationsには100以上の生成AI機能が組み込まれており、50以上のロールごとの専用AIエージェントを提供している。

「インフラとAI開発プラットフォームが自社にあるから、大きな差別化のポイントになる。今後組み込まれるAI機能は標準契約に含まれる」と三澤氏は語った。

なお、中堅・中小企業をターゲットとしたNetSuiteも同じスピード感でAIが実装されるという。「中小企業が自社でAIを開発することは不可能。使えるAIを提供していきたい」と三澤氏は述べた。

最後に、三澤氏は、Oracle Cloudが多様性と独自性を追求することで、AIクラウドとして他社とは異なる進化を遂げていると語っていた。