9月の自民党総裁選を石破茂首相が制し、新政権の外相に岩屋毅氏が就任したことについて、外務省内では安堵と不安が入り混じる複雑な心境を抱く幹部が多い。安堵を感じる理由は、決選投票まで残った高市早苗氏が首相とならなかったことだ。
現在、同省が最も神経を使っているのは、岸田文雄政権下で関係改善が進んだ日韓関係。日米韓の安全保障協力を重視する米側は日韓の摩擦を特に嫌う。
省内には、中国の脅威を正しく認識し、強めの安全保障政策を訴える高市氏を評価する向きもあったが、首相になったら靖国神社を参拝するという原則論を崩さない姿勢には、対韓国の面から不安が広がっていた。その点、当面の靖国参拝を控える石破首相には「消極論だが高市氏よりマシ」(局長級)という声が多い。
岩屋氏は外相就任後、早速韓国の趙兌烈(チョテヨル)外相と電話会談し、外相同士でも相互に行きかうシャトル外交を行うことで一致。省幹部は「11月の米大統領選で、日韓の関係強化を特に求める民主党のハリス副大統領が当選しても、日米韓の信頼関係が崩れない最低限の土台はできた」と胸をなでおろす。
一方で、不安は岩屋氏が石破氏の最側近として知られ、外交でも官邸の意向を重視しすぎないかという点だ。石破氏は、日米同盟をより対等な関係にするため、日米地位協定の改定を公約に掲げている。
本当に協定改定を行うなら、交渉の窓口は外務省になる。岩屋氏は周囲に「私が首相に『改定など無理だ』とはっきり伝える」と語り、沈静化を図ろうとしている。しかし、別の省幹部は「首相が次の衆院選で勝利したら、大臣に無理を承知で動き出すよう求めてくるかもしれない」と不安も口にする。