【財務省】「安定感」の加藤大臣 首相への〝防波堤〟となるか

10月1日に発足した石破茂政権の財務相に加藤勝信・元官房長官が起用された。石破政権の経済閣僚は「素人集団」(閣僚経験者)と言われる中で、加藤氏は財務省内で「知識も経験もあり安定感は抜群」(中堅)と歓迎されている。

 加藤氏は就任に伴う報道機関各社のインタビューで、総裁選で提唱していた所得倍増の実現性に関し、「人件費や物件費の上昇が転嫁されていく環境を進め、物価上昇を上回る賃上げを実現したい」と意気込んだ。地方経済の活性化については「事業再生や収益基盤の強化など金融機関を含め地域の一層の支援が必要だ」と、石破首相が重視する地方創生を後押しする考えを披露した。

 こうした答弁の安定に加え、財務省が加藤氏に期待するのは石破首相に対する〝防波堤〟としての役割。石破首相は総裁選で訴えていた金融所得課税の強化や法人税の見直しについて、首相就任後は封印している。

 ただ、衆院選の結果次第では世論の支持を得やすい富裕層や大企業に対する課税強化に傾く可能性はくすぶる。財務省は本来、課税強化は財政健全化に向けて必要との立場だが、何より懸念するのが「首相の方針がブレること」(幹部)で、政権の安定運営を損なう手法は避けたいのが本音だ。主計局幹部は「首相が考えを変えようとしても、加藤大臣がストッパーになってくれる」というわけだ。

 一方、加藤氏の就任で遠のくかもしれないのが歳出改革だ。加藤氏は「石橋を叩いて渡るのに10年かかる」(政府関係者)といわれ、改革志向は希薄だ。前回の診療報酬改定でも日本医師会の主張を代弁するかのようにプラス改定を主張し続け、財務省内で冷ややかにみられた。加藤氏の下で財政規律が進むかどうかも焦点になりそうだ。

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