現在、さまざまな企業がAIを最大限に活用しようとしている状況であり、リーダーが知っておくべき重要なことの一つに「プログラムの品質を決定づけるのは、AIモデルのトレーニングに使用するデータの“質”」という点が挙げられます。

ChatGPTやGoogle Bardのようなツールが世界中の企業でAIの採用を加速させていますが、企業が独自のデータセットを自社モデルに統合することで、さらに大きな革新と影響が起こると予想されます。なぜなら、AIのアウトプットの精度、質、信頼度は、AIが基盤としているデータと直接結びついているためです。

AIの最大のメリット

AIを活用するには、適切なデータでAIモデルをトレーニングすることが不可欠です。しかし、AIを活用する最大のメリットは、回答そのものではなく、新しい質問を生み出し、新しい機会を見出し、行動を促す能力にあります。そして、これらの能力を実現するには、人間の専門知識が非常に重要となります。

人間は、どのような質問をすべきか、どの指標を追跡する必要があるか、そして特定の状況にどう対応するかを知っています。同様に、AIツールもさまざまな業界や地域における実際の結果や不測の事態に応じてモニタリングしたうえで設定を行い、最適化される必要があります。

AIの影響と、そのために人間が中心となって果たすべき役割は、ハーバード・ビジネス・スクールのカリム・ラカニ(Karim Lakhani)教授の次の言葉に最もよく表されています。

「AIは人間に取って代わるものではありません。AIを活用する人間が、AIを活用しない人間に取って代わるのです」

AIは、インターネットやスマートフォンよりもさらに大きな変革をもたらす技術になるでしょう。この新しい時代のビジネスで成功するのは、独自のデータセットと高度な知識を持つ専門家の両方を擁する組織です。

データは差別化要因

AIモデルは、すべてのエンゲージメントから絶えず学習し、ユーザーのために改善を進めています。しかし、AIモデルに使用されているインサイトの量や奥行きが十分ではない場合、モデルが表現しようとしているプログラムや問題を適切に反映できず、提案するソリューションに悪影響を及ぼすことがあります。 

逆に、AIモデルが適切なデータを使用していれば、現在のタスクにより最適化される可能性が高くなります。現在起こっていることやその理由、それを解決するために必要なことを深く理解できるからです。

データを活用したAIの実例

AIを活用することで、大きなインパクトが期待できる事例は、カスタマー(顧客)エクスペリエンスと従業員エクスペリエンスの向上です。待ち時間の短縮やパーソナライズされた製品やサービスの提供は、よりよいカスタマーエクスペリエンスにつながります。また、日常的なタスクの自動化は、従業員にとって、ビジネスの上で戦略的な価値を生み出します。実際、クアルトリクスの調査によると、カスタマーエクスペリエンスに優れている企業の60%が、AIによって競争優位性が得られると考えています。 

これらの事例を詳しく見ると、AIモデルのトレーニングに適切なデータを使用することが、いかに重要かがわかります。

人材の獲得と維持が戦略的優先事項である企業では、従業員からのフィードバックを活用することで、AIが離職リスクの高い部門を特定し、パフォーマンスの高い従業員の雇用維持とウェルビーイングの向上に特化した推奨アクションを提供できます。

さらに、有意義でパーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスを提供したい企業は、AIを活用して各チャネルから受け取る顧客フィードバックを迅速に分析することで、即座に適切な対応ができます。同様に、消費者調査担当者はAIを使用してこのフィードバックをレビューし、顧客に良いインパクトを与える製品、および改善すべきサービスは何かを素早く特定できます。

AIはすべてのビジネスが成果を上げることを加速しています。業務上重要なタスクでAIモデルを使用するのであれば、適切なデータセットを使用することが不可欠です。そうでなければ、一貫性がなく多くの時間や手間のかかるカスタマーエクスペリエンスや、効果がなく見当はずれの従業員エクスペリエンスなどが生じ、コストがかさむようになるでしょう。これは企業が達成しようとしていることと正反対です。

AIに関する懸念と不安に対処する

AIの能力について期待が高まる一方で、懸念点もあります。企業はAI導入に際して慎重に的を絞ったアプローチを取ることが必須です。例えば、AIベースのサービスやコミュニケーションを使うことに安心感があると答えた日本の消費者はわずか45%でした。彼らは人とのつながりの欠如、個人データの悪用、雇用の喪失の可能性、サービス品質についての不安を抱いています。

第一に、データのセキュリティとプライバシーは、すべてのAIモデルの根幹でなければなりません。もちろん、これにはデータ規制への準拠が含まれますが、重要なのは、モデルが既存のバイアス、誤った考え、誤解を助長しないようにすることです。そのためには、企業は価値に基づいたアプローチをAIに適用する必要があります。

また、適切な技術やパートナーを選ぶとともに、企業はAIをどのようにビジネスに取り入れるか、初期の投資や施策のどこに焦点を当てるかを考える必要があります。インパクトが最も大きい領域に優先して投資を行い、従業員に対して透明性を保つことで、AIを使用してビジネスインパクトを生み出すと同時に、チームを成功へと導くことができます。

最後に、企業がデータセットの数を増やす際には、コールセンターのやり取りの文字起こし、ソーシャルメディアの投稿、チャット、レビューサイトから得られるインサイトなど、構造化データと非構造化データの両方を含めることが重要です。

企業のデータの最大90%が非構造化データであり、その割合は年々増えていると考えられています。「非構造化データを活用できている企業はわずか18%に過ぎない」という最近のIDCの調査結果を考慮すると、非構造化データから得られるインサイトを活用することは、企業が市場で差別化を図るための大きなチャンスとなります。

例えば、新しい会話分析技術を使用することで、企業は提供されたフィードバックを活用して、現在だけでなく、将来の業務効率を向上できるようになります。

AIでビジネスをもっと人間らしく

AIの価値を引き出す鍵は、人間のつながりを優先し、改善することです。これは顧客にも従業員にも当てはまります。顧客は依然として人間とやり取りできるチャネルを好んでいます。AIに対する最大の懸念は人間とのつながりの欠如と仕事が奪われることです。従業員はAIに自分の仕事を支援してほしいと考えていて、管理されることは望んでいません。

AIがもたらす機能により、企業は適切な方法で迅速に行動を起こせるようになります。企業は素早く、果断かつ正確に行動できるようになるとともに、多くのアクションを自動化することで、より有意義で関連性が高く人間味のあるインタラクションが可能になります。

企業や政府は、AIの力を活用して顧客や従業員との関係を深める上で絶好の機会を手にしています。これは長期的な成功にとって非常に重要です。しかし、それがすばらしいものになるかどうかは、企業が顧客や従業員の希望やニーズを深く理解して応えることにかかっています。

著者プロフィール


ブラッド・アンダーソン(Brad Anderson)
クアルトリクス プロダクトエンジニアリング担当プレジデント

クアルトリクスのエクスペリエンス・マネジメント・ソリューションの定義、構築、サポートを担当。同社における全世界5拠点の開発センターの、エンジニア、プロダクトマネージャー、エクスペリエンスデザイナー、プログラムマネージャー、ITプロフェッショナル、セキュリティチームを統括。Qualtrics SaaSサービスの継続的な拡張において、サービス品質保証、プライバシー、セキュリティ要件の保証を監督。