本田財団(石田寛人理事長)は2024年の本田賞を、近赤外線を利用して網膜や視神経といった眼底の断面を画像化する光干渉断層撮影(OCT)の技術を開発した、電気工学者で米マサチューセッツ工科大学教授のジェームス・フジモト氏(67)に授与すると発表した。医療用OCT技術の開発を最初期から一貫して先導し、商業化、臨床応用に貢献。現代の眼科医療に不可欠の技術となっている点が評価された。

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    ジェームス・フジモト氏(本田財団提供)

かつての網膜の検査は「スリットランプ顕微鏡装置」「検眼鏡」を使った。異常が見つかると写真撮影や蛍光眼底造影を行ったが、網膜を前方向から見た2次元の画像しか得られなかった。

光には波としての性質があり、複数が重ね合わさると振幅が合わさって強まったり弱まったりする。これを光干渉という。フジモト氏は1980年代に、この現象を利用して組織内部の細かな構造を高解像度で画像化することを着想。光通信の研究者や眼科医らと共に、眼科用OCT装置の試作モデルを完成させ、96年には第1世代が発売された。2006年発売の第2世代では、画像処理速度が飛躍的に向上。レーザーが網膜をスキャンして3次元画像をリアルタイムで生成し、網膜の構造を深さごとに可視化できるようになった。

OCTは組織表面から数ミリの深さまでを高解像度で可視化でき、厚さ0.1~0.5ミリ程度の網膜の断層や3次元の画像を得る唯一の技術だ。また、組織片を採取せず、弱い光線を眼球に当てるだけで済むため、患者への負担が小さく安全性が高い。網膜は糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、緑内障などにかかりやすいだけに、不可逆の視力低下が進む前の治療につながるOCTの意義は極めて大きい。

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    (左)眼底カメラが一体となった最新型OCT装置(本田財団提供)、(右)OCTによる眼底の画像(「M・ヒーほか、アーカイブス・オブ・オフサルモロジー 1995」提供)

また、OCTを光ファイバーカテーテルや腹腔鏡、内視鏡と組み合わせれば、体内の高解像度の断層画像が得られる。多彩な臨床分野に応用する取り組みが活発となっており、例えば心筋梗塞の治療では、動脈にステントを挿入する際のガイドとしてOCTを用いる技術が普及しつつある。

贈呈式は来月18日に東京都内で開かれ、1000万円が贈られる。

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