このブログでは、先日のイベントレポートに引き続き、未来館の中にあるさまざまな研究室と一緒に行ったイベントの様子をお届けします! 今回ご紹介するのは、2024年6月8日に「ミトコンドリア生合成」プロジェクトと行ったイベント「ミトコンドリア・クエスト」です。

「ミトコンドリア生合成」プロジェクトとは?

「ミトコンドリア生合成」プロジェクトが研究しているのは、わたしたち生き物の身体をつくっている細胞の中にある「ミトコンドリア」です。ミトコンドリアは、細胞が活動するために必要なエネルギーをつくり出す、「発電所」のようなもの。このプロジェクトでは、そんな「発電所」がどんな形をしていてどのような働きをもっているのかを解明すべく、日々研究を行っています。

今回行ったイベント「ミトコンドリア・クエスト」では、ミトコンドリアそのものや「ミトコンドリア生合成」プロジェクトが行っている研究について、研究代表者の遠藤斗志也さん(京都産業大学 生命科学部)から直接お話しいただきました。遠藤さんのミトコンドリア愛あふれる熱いトークのおかげもあり、会場は超満員! この熱気を感じてみたい方はぜひアーカイブ映像をご覧ください。

ミトコンドリアや生命科学と“遊べる”場所

遠藤さんのトークの裏では、さまざまな切り口からミトコンドリアや生命科学に触れられるイベントも行いました。

 

イベント会場に入った来館者にまず渡されたのは、ミトコンドリアに関する10問のクイズ。このクイズは、会場内にあるさまざまな体験を行うと解くことができます。体験してクイズを解き進めることで、ミトコンドリアや生命科学について楽しみながらちょっと詳しくなってもらうためのしかけです。

実験に使った道具からミトコンドリアの色当てまで、多種多様なクイズが勢揃い。難易度もさまざまで、「クイズが少し難しくて良かった」という感想も。

会場内には、ミトコンドリアや生命科学に関係する模型や装置などをたくさん置きました。たとえば細胞の三次元模型。これを見たり触ったりすると、わたしたち生き物の身体をつくっている細胞の中には何があるのかを知ることができます。

模型を見てミトコンドリアを探す来館者がたくさんいました。

また、顕微鏡が置かれたエリアでは、プロジェクトが研究で使っている酵母(味噌や日本酒を作るときに使われている菌)の観察を行いました。そしてこの顕微鏡の隣に置かれたモニターには、電子顕微鏡で見たミトコンドリアのすがたが! 三次元模型で見たミトコンドリアとは違うすがたに驚いている方も多かったです。

本物の酵母を見ることができ、感動や驚きの声がたくさんあがっていました。

ほかにも、研究者の“相棒”である実験器具を使ってみる体験も行いました。少量の液体をはかり取るマイクロピペットを使って蛍光ペンのインクを薄めてみたり、DNAやタンパク質を分ける実験で使う電気泳動の装置に青い液体を打ち込んでみたり……。慣れない操作で大変そうな方が多かったのですが、その真剣な表情は研究者さながら!

電気泳動は、DNAやタンパク質に電圧をかけることでそれらを大きさごとに分ける実験で、生命科学の研究を行うためには欠かせません。実際に手を動かすだけでなく実験の原理や研究現場の話も聞けるのは、研究者と直接話せるイベントならでは!

緑色のマットが敷かれたエリアは、靴を脱いで一休みできる場所。そこに置かれているチューブやビーカーをおもちゃのようにして遊んでいる親子もいました。

小さなお子さんをもつ研究員のアイデアを形にしたのがこのエリア。大人気でした!

会場中央のテーブルでは、高校や大学で使う生物の教科書やミトコンドリアに関する論文などを自由に読めるようにしました。さまざまな体験をして気になったことがあったらここに行くといったように、教科書や論文を“相談相手”にしている方が多かったです。

こんな感じで熱心に読んでいる方が多かったのが印象的。ちなみに、イベントの数日前に公開された論文を印刷してこっそり忍ばせておきました。参加されたみなさん、気づきましたか?

会場を出るときには、「ミトコンドリアの研究者にひとこと!」という問いへの回答をふせんに書いて貼ってもらいました。「面白かったし勉強になった!」という回答が多くの方からあがっていました。

写真にあるミトコンドリアつき付箋は、プロジェクトメンバーによる手づくりなんです!

人の数だけ「〇〇したい!」がある。だからこそ、さまざまな入口を

イベントに参加してくれた方々を見ていると、「ミトコンドリアは緑じゃないんだ!」と新たな気づきを得た大人、大学の分厚い教科書を読みこんだり研究者に直接ミトコンドリアの質問をする小学生、ビーカーを積み木のようにして遊ぶ小さな子、彼/彼女を見守りながらちょっと一息ついている保護者など、このイベントへのさまざまなかかわり方が見えました。そして、参加したほとんどの方にとって、自分のやりたいことを実現できる“居場所”を、どこかに見つけることができたイベントだったと感じています。

研究代表者の遠藤さん(写真左)に、ミトコンドリアの疑問を直接ぶつける来館者。彼にとっての居場所は、ここだったのかもしれません。

わたしたちは一人ひとり、知っていることも興味も違います。みんながみんな「ミトコンドリア博士になりたい!」と思ってこのイベントに参加しているわけではありません。生物のことを知りたい、実験を体験したい、研究者と話したい、ちょっと一休みしたい……などなど、人の数だけ「〇〇したい!」があるはずです。そうだとすると、こういったさまざまな「〇〇したい!」を叶えられ、かつ思いもよらぬ「〇〇したい!」が生まれるような場所をつくることが、より多くの人が科学とかかわるうえで大切ではないでしょうか。実は、ミトコンドリアや生命科学に触れるだけでなく、このことを裏テーマとして念頭に置きながらこのイベントを企画していました。

さらに、こういったさまざまな「○○したい!」を受けとめられる場所づくりは、「自分も科学にかかわれるんだ!」という感覚を生むことにもつながっていくと考えています。「科学と自分のかかわりとかよくわからないし、議論とか対話とか言われると尻込みしてしまうなあ……」と感じている方でも、科学館でちょっと一休みするだけなら「まあやってみようかな!」と思えそうではないですか? そして、そこで出会ったひょんなことから、科学と関連した「〇〇したい!」が新たに生まれるかもしれません。

未来館にはみなさんの「〇〇したい!」を受けとめられるさまざまな展示やイベントなどがあります。また、私自身今後もこういった居場所づくりを意識した取り組みを進めていくつもりです。なので、まだ未来館に来たことがない方はぜひふらっと遊びに来てください。きっとあなたにとっての居場所がどこかに見つかるはずですよ!



Author
執筆: 加藤 昂英(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、研究エリアとの共同イベントやノーベル賞関連イベントの設計や実践を担当。誰もが未来館に居場所を見つけられるための取り組みを、人文・社会科学やデザインの知見も取り入れながら模索中。

【プロフィル】
高校でベンゼンという物質に一目惚れし、大学、大学院ではベンゼンが連なった物質の研究を行っていました。その傍らで科学コミュニケーションの実践活動も行い、「いま、ここにいる人にとっての、科学とのより良いかかわり方」という課題意識を追究するなかで未来館へ。化学、言語学、デザイン、日本酒、旅行、アイドル……などなど、学問も趣味も興味が広がってしまうタイプです。

【分野・キーワード】
物理有機化学、ナノカーボン、化学