富士フイルムホールディングス(富士フイルムHD)は10月17日、「2024年DX記者説明会」を開催。富士フイルムグループのDX戦略や取り組みなどに関する紹介を行った。
富士フイルムホールディングスの執行役員 CDO ICT 戦略部長で富士フイルム取締役執行役員CDO 兼 イメージング・インフォマティクスラボ長の杉本征剛氏は、「グループ全体でDXを推進するための共通指針として『DXロードマップ』を策定。持続可能な社会を支える基盤として、より多くの製品・サービスを定着させることを目標としている」とし、生成AIやデジタルトラストプラットフォーム(DTPF)を積極的に活用する形での多種多様な取り組みを全社的に展開。モノ(機能価値)の継続提供というステージIから、アウトカム(利用価値)の継続的な最適化を図るステージII、そして持続可能な社会を支える基盤として定着することを目指すステージIIIの3段階を定義。すでに各事業領域の一部はステージIIIに到達しているものもでてきているなど、着実に成果が出てきていることを強調した。
また、今後のDXの推進エンジンは「AI」であると指摘。「アシスタント的な役割を担う生成AIへの期待が高まりつつある。すでに富士フイルムグループとしてもそうしたサービスの提供も始めており、特定技能を持たない汎用的な民主化されたAIが登場することへの期待も高まっている」とし、グループ全体でさまざまな事業分野でAIの活用を進めていることを指摘。自社で策定したAI基本方針に基づき、人間を中心とした人の役に立つ「アシスタントAI」の作成を進め、正しく活用することでDXビジョンの実現を目指すとする。
具体的な推進手法としては、独自のマネジメントサイクル「STPD」の活用を挙げている。「See(情報収集)」、「Thinl(分析)」、「Plan(分析)」、「Do(実行)」をサイクルとして活用。例えば自社開発のAIチャットボットに生成AIを融合させることで、幅広い問い合わせに対して、高精度な回答を可能とし、これにより複数の領域において、業務効率化・工数/コスト削減・顧客満足度の向上などを実現したという。
このほかにも、「営業支援(営業コックピット)」として営業活動の効率化を進め、顧客と向き合う時間を増やすことを可能としたり、「経営情報分析支援(経営コックピット)」として、レポートの作成、課題の抽出、原因の特定、アクション提案、シミュレーション実行などをAIが行うことで、経営の意思決定の加速を図ることにつなげているとする。
データの信頼性をどのように担保するのか
デジタル社会において、データの正確性は重要になってくるが、それをどのように担保するのかが問題になってくる。同社でも、ブロックチェーン技術を応用することで、企業や個人間のデジタル情報取引におけるデータ、スキームの信頼性(トラスト)を担保する情報基盤を完全内製で実現。デジタルトラストプラットフォーム(DTPF)として、ユーザー自身がデータの管理を特定のプラットフォームに依存しない形で実現できる仕組みを整えつつあるという。
その最たる例が2021年にインドのベンガルールに開設した新興国向け健診サービスセンター「NURA」だという。インドは国家主導で「India Stack」と呼ばれる個々人に生体情報まで含めたデジタルIDを発行するサービス「Aadhaar」を提供するなど、国民のデジタル化を推進してきた。NURAの取り組みも、こうしたデジタルIDを基盤とするもので、同社のCTやマンモグラフィなどの医療機器や医師の診断を支援するAI技術を活用して、がん検診をはじめ、生活習慣病の検査サービスなどの提供につなげており、2024年7月時点で利用者は累計6万人に達したという。
NURAは2024年7月にはベトナムのハノイ、同8月にはモンゴルのウランバートルにも拠点を開設。今後、中東やアフリカにも展開していく予定だとしている。杉本氏は、「これまで医療機関が管理していた医療データを、個人がその価値を認識し、利活用できるデータとすることで、自身の医療データの資産化の実現を目指す取り組み」とNURAにおけるDTPFの関係性を説明。グローバルの健診データを本人の同意に基づいて富士フイルムグループに提供し、AIによる分析レポートを個人に返送するといったことも可能だとするほか、DTPFの活用として、ウェアラブル機器との連動により、データの主権はあくまで個人にあるという前提に基づいて、健診データと日常のヘルスケアデータを統合して分析し、個別化された保険の提案などにつなげるといったことも想定。こうした個別化保険ソリューションは、試作を用いた社内検証を終え、今後、インドの保険会社で利用してもらう社外検証を年内にも開始する予定だとしている。
インドにおけるDTPFの活用については、インド政府が推進するデジタルヘルスケア基盤(ABDM)との連携を進めており、NURAの健診受診者が医療機関の受診時に自身の健診データを医療機関の医師と共有することなど、さまざまな活用に向けて、インド政府の審査を経て、2024年度末の本番環境への連携を目指すとしている。