北海道とNTT東日本北海道事業部は10月1日~2日の2日間、デジタル技術による地域課題の解決をテーマとしたイベント「北海道ミライづくりフォーラム2024」、ドローンの社会実装の加速をテーマとした「第3回ドローンサミット」を札幌で開催した。
両イベントの目的について、NTT東日本 北海道支店 第一ビジネスイノベーション部 地域基盤ビジネスグループ 地域基盤ビジネス担当 担当課長 沖杏奈氏は、「デジタルがもたらす恩恵によって、どういうところで道民のみなさんの生活が変わっていくのか、また自治体の業務が改善できるのかについて、漠然としたイメージを具体化してもらい、事業に落とし込んで推進していくための人脈を築いてもらう機会として開催しています」と語った。
北海道と包括連携協定を締結
NTT東日本北海道事業部は2015年1月、北海道と包括連携協定を締結し、北海道の活性化に向け「アスリート等の受入体制の整備促進」や「人口減少・少子高齢化対策としての地域活性化支援」、「安全・安心な地域づくり」、「北海道の観光振興」等の協働事業を実施してきた。2022年12月には、「デジタル人材の育成」「ドローン」「ワーケーション」への取り組みを追加し、新たな包括連携協定を締結した。
北海道と包括連携協定を締結した背景について、沖氏は、「最初の締結から時間が経っていたので、見直しを行ったのが2年前です。道庁様もDX推進課を3年前に新設され、DX(デジタルトランスフォーメーション)のさらなる推進やドローンの推進を重点施策として掲げられたので、時代に合わせて3つのテーマを追加しました」と説明した。
北海道との協定は包括連携のため、さまざまな分野のテーマを取り扱うという。例えば、防災関係の協定の項目も含まれており、災害があった場合には現地確認をしたり、早期の復帰に向け、NTTの保守部隊と道庁の現地メンバーで情報連携するためにコミュニケーションルールを確立したりしている。
新たに追加された人材育成では、道庁の職員がDXに向けデジタル知識を身に付けていくことを支援している。具体的には、道庁が2年前に作成したデジタル人材に関する職員の育成方針に基づいて、研修やセミナーに参加してもらい、DXに関するさまざまなソリューションを知ってもらうことで、業務で活用する発想を得る機会を提供している。
ドローンに関しては、操作研修を一緒に行ったり、ドローンを触ったことがない職員に向けた体験会を開催したりして、ドローンが親しみやすく使えるものであることを知ってもらっている。
北海道庁でも検討が進む生成AIの活用
北海道庁においては、生成AIを活用して、業務の効率を上げることも行っているという。
「対外的な文章の作成やイベント企画において生成AIを補助的に使うなど、効果的な使い方に関する研修をサポートしています」(沖氏)
イベントの展示会場では、NTT東日本の自治体向けの生成AIソリューションが展示されていた。
このソリューションは、セキュアに生成AIを活用するための管理機能のほか、プロンプトのテンプレート(AIコンシェルジュ)を100以上提供している。テンプレートの中には、議会の議事録を参照して答弁案を添削し、過去の答弁と矛盾していないかをチェックする機能もある。
また、NTT東日本のブースでは、最近多発する自然災害に向け、備蓄品管理システムや総合防災情報システム避難所に設置するためのバッテリー(HUG1500)、11時間点灯できる非常用LED証明(HUG20A)、乾電池なしで点火できる石油ストーブも展示していた。
備蓄品管理システムでは、使用期限や定期点検のアラート通知やExcel等に保存した情報から内閣府への報告様式を作成できる機能を持つ。
NTT東日本が地域サポートする上での強みについて、沖氏は、次のように語った。
「当社は支店が各地にあり、全道に人員を配置していますので、地域や自治体の職員の方にしっかり寄り添った形で提案しています。また、導入から運用まで一気通貫で対応していく中で、知見も豊富にありますので、DXを進めていく上でのパートナーとして対応できるところが強みだと考えています。さらに、業務を把握した上で、ピンポイントに役立つ提案をするために、人材の派遣も行っています」
人材派遣の一つの例が、デジタル相談員の派遣だ。デジタル相談員は、道庁や市町村からデジタルに関する相談を道庁内のほか、オンラインでも受け付けており、5人のメンバーが対応している。この1年間の相談としては、Excelでのデータ処理の効率化、DXを何から始めていいのかわからない、WebページやSNSの効率的な運用といった内容が多かったという。
GXのポイントは地域課題の解決に貢献できるかどうか
「北海道ミライづくりフォーラム2024」では、NTT東日本が主催するGX(Green Transformation:グリーントランスフォーメーション)やデジタル人材育成に関するDXカンファレンスも開催された。
GXのカンファレンスでは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部 イノベーション&インキュベーション部 プリンシパル 山本雄一郎氏と、岩手県紫波町 産業部 地球温暖化対策課長 松村寿弘氏によるパネルディスカッションが開催された。
環境省は、地方自治体を対象に脱炭素先行地域の募集を過去5回行っている。脱炭素先行地域に選定されると、最大50億円の支援金が支給される。
山本氏はこの5回にわたる選定における変化として、「最初はとにかく新しいものが関心を集めていましたが、最近は循環性や事業性、持続性などが求められています。実証が実装に移ってきていると感じます」と、国が脱炭素に向け、事業性や持続性を重視する傾向に変わってきている点を指摘した。
山本氏は、脱炭素化に向けては、首長のトップダウンや意欲の高い職員の起用で庁内全体を巻き込んでいくこと、脱炭素を地域活性化や課題解決の1つの手段として取り組むことの必要性を指摘した。
また、「第3回脱炭素先行地域」の公募で選定された紫波町の松村氏も、脱炭素をCO2削減という視点ではなく、地域産業の振興や地域課題の解決という視点でプロジェクトを立ち上げて絡めていくことが重要だと強調した。
松村氏は、GX担当の職員不足という多くの自治体が抱える課題に対しては、国からさまざまな補助金が支給されているため、それらを活用することで自治体を活性化していくこと、職員に長い経験を積ませるノウハウを蓄積していくことが重要だとアドバイスした。
DXを推進するには、リーダーが活躍できる仕組みが重要
デジタル人材育成のカンファレンスでは、NTT DXパートナー取締役 近藤俊輔氏が講演した。この講演では、DXを推進していく体制の構築がテーマとして取り上げられた。
現在、多くの自治体では、年間を通じてレベルアップを図るための研修を受けてもらう形で、DXを推進していくリーダー育成が積極的に行われているという。
ただ近藤氏は、DXを推進していくためには、リーダーが活躍できる組織づくりが重要だと指摘した。
「リーダー研修を受けている人にインタビューすると、半分ぐらいの方は困っている状態にあることがわかります。例えば、『研修で学んでいるが、具体的に何をやればいいのかわからない』『誰からDXの相談を受け、誰に判断してもらえばいいのかわからない』といったことで悩んでいます。また、リーダー候補は本業が忙しく、研修という形で業務に穴を開けることをチームに対して申し訳ないと感じています。DX推進リーダーを中心にスキルマインドを育成していくことが間違っているとは思いませんが、その方々が活躍できるような仕組みを構築しなければ、結果として、持続的なDXが進まないと思います」
同氏によれば、DX推進リーダーが活躍できる仕組みとしては、「役割と運用を明確化する」「DX推進リーダーに対して組織内で理解を得る」「リーダー同士の横のつながりを作っていく」という3点が大切だという。
まず、「誰が業務課題を顕在化させるか」「課題解決に向けどういったチームを編成するか」「誰が解決策を検討するか」「誰が解決案を承認するか」「誰が解決策を実施していくか」といった運用フローとそこにおける役割を明確にする必要あるという。
また、組織内における理解においては、DXを推進する理由を全員が理解する必要があるのはもちろん、課長がDX推進のリーダーの活動を認知・承認すること、業務改善を行うときに出てきた反対勢力をけん制することが求められるという。
そして、リーダー同士の横のつながりの構築に向けては、「DX推進リーダーの業務改善の取り組みをホームページ等で紹介する」「推進リーダー同士の集合会議を定期的に開催する」「チャットなどタイムリーに意見交換ができる仕組みをつくる」といった方法があるという。
最後に、近藤氏は「誰に、何を、どのように学んでもらうのかという設計も大事ですが、学んだ人間がちゃんと活躍できるような仕組みを作っていくことも掛け合わせて、初めて企業や自治体のDXの推進が始まっていくと捉えています」と語り、講演を終えた。