東北大学は10月16日、自動運転車の実用化に向けて、高精度かつリアルタイムな距離測定技術を開発するために用いられている近赤外光を通す、SiやGaAsなどの従来材料よりも高い屈折率な透明材料を発見したことを発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の石井暁大助教、同・高村仁教授らの研究チームによるもの。詳細は、光と物質の相互作用に焦点を当てた材料科学に関する学術誌「Advanced Optical Materials」に掲載された。
AIやIoT技術の進展に伴い、現実世界をデジタル化するための「目」として、近赤外光の利用が増加している。現在の自動車の衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全技術にはミリ波レーダーなども利用されているが、今後の自動運転化においては低コスト化に向けて、近赤外光の反射により周囲の物体との距離を精度良くリアルタイムに測定する技術が求められている。また、オフィス空間や工場、インフラなどの現実世界をバーチャル空間上に再現するデジタルツインにおいても、近赤外光による高精度かつリアルタイムな空間把握が期待されている。
そうした近赤外光センシングにおける課題は、環境光によるノイズに弱いという点で、現状、近赤外センサには不要な光を遮断する光学フィルターが必要とされるが、現状、その多くは視野角が狭いため、広視野を得るにはセンサを高速回転させる必要があり、システムが高コストになってしまうという課題があったという。
光学フィルターは、高屈折率と低屈折率の透明材料をナノスケールで交互に積層して作製されるが、現在の近赤外域で高屈折率を有する透明材料としてはSiやGaAsなどに限定されており、より広い視野角を得るため、それ以上に高い屈折率を持ちつつも透明な光学材料の開発が求められているという。そこで研究チームは今回、近赤外域で透明かつ従来よりも高屈折率の材料を第一原理計算を用いて網羅的に探索することにしたという。
探索の結果、「ハーフホイスラー合金」と呼ばれる材料群が、シリコンの約3.4に対して最大で約1.5倍となる5を超える屈折率を示す透明材料になることが示されたという。同合金は、量比が1:1:1となる3種類の金属元素が規則的に配列した化合物結晶であり、これらの材料の透明性を示すバンドギャップは、金属原子の有効核電荷とサイズによって決定されることが見出されたとする。
また、第一原理計算から高屈折率かつ透明材料と示唆されたハーフホイスラー合金として、チタンとコバルトとアンチモンからなるTiCoSb薄膜を実際に合成し、分析を行ったところ、計算値とよく一致するn=4を超える高屈折率が得られることが確認されたとする。
今回の研究で発見されたハーフホイスラー合金の超高屈折率材料を光学フィルターに応用することで、近赤外光を利用した高精度かつリアルタイムな距離測定センサの視野角が広がり、自動運転車やデジタルツインの普及が加速することが期待されると研究チームでは説明するが、その一方で、この超高屈折率材料で光学的に優れた透明性を実現するには、原子スケールでの精密な欠陥制御が必要なことも研究から示されたとしており、今後、欠陥制御技術の確立を目指すことで、超高屈折率材料を用いた光学フィルターの開発に取り組むという。また、今回の研究で得られた知見を活用する形で、他の波長の光に対しても透明かつ超高屈折率を示す材料の開発にも取り組むともしている。