富士通は10月15日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の委託事業である「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において、AI技術を活用しモバイルネットワークの通信品質を高めつつ省電力化を図る技術などから成るネットワーク運用を高度化するアプリケーションを開発したことを発表した。
富士通は今後、このアプリケーションをO-RAN仕様に基づく運用管理システム(SMO)「FUJITSU Network Virtuora Service Management and Orchestration」に搭載し、無線装置(RU)で培ったフットプリントを生かして全世界のモバイルネットワーク事業者に向けて11月より提供を開始する予定。
モバイルネットワーク利用者のQoEのリアルタイム推定と品質確保を実現
同社は今回、AIによってQoE(Quality of Experience)をリアルタイムで推定し、低下を検知した際には自動的に他の基地局のネットワークエリアに切り替える技術を開発した。100ギガビット / 秒のRANのトラフィックに対応した高速なパケット解析から、利用者単位、アプリケーション単位の統計データを算出し、そこから特徴量を選択するだけでアプリケーションごとのQoEを推定可能。
これにより、利用者一人一人のQoEを正確に把握し必要なリソースを割り当てることで、利便性と満足度を確保しつつ、過剰なリソースを抑制することで一つの基地局あたりの収容利用者数を19%向上させられるようになったという。
通信トラフィック上昇を予兆検知し品質維持と省電力化を実現
自然災害などの有事やイベント開催などの際に、通信トラフィックが通常時と比較して上昇していることをAIで予兆検知することで、それまでスリープさせていた基地局を事前に起動させて利用者の通信品質の劣化を未然に防止する技術を開発。
従来は、エリアごとのトラフィックをリアルタイムに監視し、起動させる必要のない基地局をスリープさせることで省電力化を図っていた。今回はそれに加えて、通常時とは異なる人流の増加を検知することでその後のグリッド単位でのトラフィック上昇を予兆する。この技術により、実証期間の99.8%の時間で利用者品質に影響を与えず事前に基地局を起動することが確認された。
同社が2023年12月に発表した省電力アプリケーションと組み合わせ、トラフィック状況に応じたきめ細かい基地局の起動または停止を行い、QoEの維持と省電力化の両立を可能にし、利便性と満足度向上、有事の際の安全性確保や社会課題の解決に貢献する。
サービス品質の劣化検知とエリア再設計によるサービス品質維持
これまで単一セルにおける異常検知技術では、トラフィックの低下要因が単純な負荷低下なのか異常なのかという判断が困難とされていた。今回開発した技術は、単一セルではなく周辺セルとトラフィック傾向を比較してAIにより判断することで、適合率92%以上の故障検知精度を実現。少ない故障データでの教師あり学習や、教師なし学習にも対応する。また、セルの重畳状況を踏まえたサービス影響度の把握により、優先的に復旧させるエリアの判断を可能としている。
この異常検知技術によってサービスへの影響が大きいと判定されたエリアに対しては、影響があるエリアを救済するため、周辺セルの指向方向や負荷状況に加えて、実フィールドのパスロスを考慮した電波伝搬予測モデルにより、最適な周辺セルにおけるチルト角の算出を行い、故障セルによるサービス品質への影響を最小化する。
これにより、装置故障など異常発生時においてこれまでは復旧に1日程度かかっていたところを、1時間以内に短縮して利用者への影響を最小限にとどめることに成功している。