ispaceは10月11日、同社の事業進捗に関する記者会見をオンラインで開催。2026年以降の打ち上げを計画する月面着陸船(ランダー)の開発費用確保に向け、計4回にわたる普通株式および新株予約権の発行を決定し、米国の機関投資家「Heights Capital Management(ハイツ・キャピタル・マネジメント)」を割当先とする第三者割当増資を行うことを発表した。
月面着陸計画の安定運用を見据え資金確保に着手
「人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界を目指す」というメッセージを掲げるispaceは、地球と月の間に“シスルナ経済圏”を構築することを見据え、現在は日本の民間初となる月面着陸を目指すHAKUTO-Rミッションに向けた開発を進めている。
2022年から2023年にかけて挑戦した初めての月面着陸ミッションは、10段階のマイルストーンのうち9つ目となる月面の軟着陸に失敗。しかしispaceの袴田武史CEOは、着陸直前までは順調に進行し大きな成果を得たとしており、それらの知見や課題を踏まえて日本法人主導で開発を進め、最速で2024年12月にミッション2となる「RESILIENCEランダー」の打ち上げを実行する予定だとする。
また日・米・欧の3法人を抱える同社は、各地域の文化や多様性を活かしながら統合的に宇宙開発を進めており、2026年には米国法人が主導するミッション3での「APEX 1.0ランダー」の打ち上げを、2027年には再び日本法人主導のミッション6「シリーズ3ランダー」の打ち上げを計画している。これらの2機は、打ち上げを間近に控えるRESILIENCEランダーに比べて約10倍のペイロードを搭載できる大型ランダーであり、現在はその初期モデルの開発を進めている最中だという。
ただし言わずもがな、宇宙機の開発を進めるためには莫大な予算が必要となる。ispace 取締役の野崎順平CFOによれば、高頻度での打ち上げを見据えた量産体制の構築や製造プロセスの効率化により、ランダー1機あたりの開発・製造費用は回数を重ねるごとに抑えられるようになる見込みだというが、それでも現在は一時的な初期R&D費用が必要となる上、特に現状については損益上の費用負担が大きい状況だとする。そのためispaceとしては「将来的に複数の月面着陸ミッションを安定的に運用するためには、充分な手元流動性および強固な資本バッファを確保することが重要」と考え、新たな資金調達の実施に着手すべきと判断したとしている。
普通株式と新株予約権の割り当てプログラムを締結
今回の資金調達先は、未公開金融コングロマリットであるサスケハナ・インターナショナル・グループに所属するHeights Capital Management(HCM)。ispaceの袴田武史CEOによれば、同社が未公開企業でミッション1の打ち上げ以前であった段階から両社は継続的な対話を重ねており、長期間をかけて深められた相互理解により、今回の大型出資に至ったとする。
今般締結されたEquity Program Agreementは、2025年3月までに完了予定の普通株式割り当て(ベース増資)、および2029年3月までの新株予約権による潜在的増資(アップサイド増資)からなる。いずれの第三者割当も2025年3月までに計4回にわたって発行が予定されており、前者については総計1100万株(各回275万株)の普通株式、後者については総計11万個(各回2万7500個)の新株予約権が発行される予定だ。
なお野崎CFOは、プログラム内の各時点におけるispaceの株価によって調達総額が変動するとしており、10月11日に決議された第1回目では、普通株式は1株あたり602円、新株予約権は行使価額802円・1個あたり828円で発行したとのこと。これにより、第1回での調達総額は約38.8億円に上ったとする。また想定調達総額については、10月10日の終値を基準とした場合、ベース増資にて約66億円、アップ再度増資にて約89億円と報告。一方で発行登録書記載の上限額(過去1年間の株価中値を基準とした場合)では、前者が101億円、後者が136億円となるとした。
ispaceは今回のプログラムについて、4回に分けて普通株式および新株予約権の発行を行うことで、発行による株価インパクトを分散・軽減すること、株価上昇の際に調達金額を増加させることで希薄化を抑制させること、さらに将来的な事業進捗に伴う株価上昇によって新株予約権による更なる調達拡大が期待できる点が大きなメリットだとし、既存株主の利益に配慮しながらも同社の将来的な資金ニーズに対応するため、現時点で最適な資金調達方法と判断したとする。
野崎CFOによると、ispaceは今回のプログラムを通じて2027年までに予定される3回のミッションを確実に実行可能とする開発資金の確保を見込んでいるとのこと。特に普通株式の発行による資金調達では、ミッション3のAPEX 1.0ランダーに搭載するリレー通信衛星の購入代金、打ち上げサービスの購入代金、ランダー製造費用の一部に充当する予定だとし、ミッション実現への道筋を明確にすることで、同社の中長期的な成長を裏打ちするとしている。