米国時間の10月9日、ステルスモードで活動していたスタートアップAetherfluxが宇宙太陽光発電の実現を目指す計画を公表した。Aetherfluxは、フィンテック企業Robinhoodの共同創業者で、今年3月までCCO(Chief Creative Officer)を務めていたバイジュ・バット(Baiju Bhatt)氏が2023年末に設立した。
宇宙太陽光発電の歴史は古く、アイザック・アシモフ氏の「われ思う、ゆえに…(Reason)」(1941)に登場し、1968年にピーター・グレイザー博士が宇宙太陽光発電システム(SSPS)構想を提唱している。その後、第1次オイルショックを契機に社会的な注目を集め、米国や欧州においてさまざまなSSPSコンセプトが検討された。しかし、財政的な問題などから研究活動は次第に縮小していった。
バット氏は、従来のアプローチとは異なる手法で「宇宙太陽光発電の商業化を目指す」と述べている。
従来の宇宙光発電では、太陽電池を搭載した大規模な衛星を静止軌道に配置し、発電した電力をマイクロ波またはレーザー光に変換して地上に送り、地上で再び電力に変換して利用するアプローチが研究されてきた。それに対し、Aetherfluxは低軌道上に小型衛星のコンステレーション(一体的に機能する多数個の人工衛星)を構築し、多くの小型地上局に電力を送る方式を進めている。マイクロ波は使わず、赤外線レーザーを使用することで、よりコンパクトで効率的なシステムを実現する。静止軌道上の衛星とは異なり、Aetherfluxの小型衛星は地球の影に入っている間は発電できない。また、個々の発電量も小規模になるが、衛星の数を増やすことでそれらの課題は克服される。
Aetherfluxは2025年末から2026年前半に最初の衛星打ち上げを計画しており、赤外線レーザーによる太陽エネルギーの伝送技術の実証を目指している。太陽光発電の実現は容易ではないが、近年では小型衛星の打ち上げコストが減少し、コンステレーションの運用に対する理解も進んでいる。
バット氏は学生時代、物理学者や数学者を志していたが、大学卒業時に金融危機が本格化し、「投資の民主化」を目指して友人とRobinhoodを立ち上げた。そして今、世界はエネルギー問題に直面している。温室効果ガス排出量のネットゼロ達成に向けた国際的な合意が進む中でも、目標達成には依然として大きな障壁が存在している。世界的なエネルギー消費は急増しており、AI導入やあらゆるものの電化、さらには紛争の影響で、エネルギーニーズはますます高まっている。バット氏は「我々が成功すれば、人類にとってどこにでも供給可能な再生可能エネルギー源を解き放つことができる」としている。