「損保のビジネスモデルそのものに問題がある」―─。
金融庁監督局保険課幹部は8月末、こう指弾した。旧ビッグモーターの保険金不正請求問題や企業向け保険を巡るカルテル、契約者情報の大量漏洩など損保業界で不祥事が相次いでいるからだ。
監督局長の伊藤豊氏は監督局が主導する異例の形で、損保業界の課題を話し合う有識者会議を3月に設置。業界団体の日本損害保険協会を母体に第三者機関を作り、代理店への監督指導の強化などを柱にした再発防止に向けた提言を取りまとめた。
ところが、8月末に4社が提出した報告書で大量の情報漏洩が起きていたことが分かり、業界の不正体質の根深さを印象付けた。金融庁は、より踏み込んだ規制強化を図らざるを得ない状況となり、今後は監督指針の改正に加え、来年の通常国会への保険業法改正案の提出を視野に、代理店への出向や便宜供与を厳しく規制する方向。
自浄能力を示そうと損保協会も対応を急ぐ。9月19日には代理店への出向や政策保有株式を制限する新たな業界ガイドラインを公表。損保協会会長の城田宏明氏(東京海上日動火災保険社長)は「旧来の業界慣行を根本から見直し、必要な取り組みを順次検討する」と述べた。
だが、スピード感を求める金融庁とは大きなズレがあることは否めない。例えば、ガイドラインは、代理店への出向について「保険契約の幹事やシェアの獲得を目的とした出向は認めない」とするが、線引きがあいまいで実効性が疑問視されている。会長会社である東京海上日動が代理店への社員の出向を原則廃止すると打ち出すが、他の3社はそこまで踏み込んでいない。
その背景には、損保の契約の約9割が代理店経由で、損保会社から約2000人規模で派遣されている出向社員がそれを支えてきた事情がある。大手損保の幹部は「出向を直ちに止めれば、代理店の経営が持たなくなる」と説明するが、これで顧客や世論の納得が得られるか。
金融庁は代理店とのもたれあい関係を排除し、保険の商品性で競う健全なビジネスモデルに転換させることを目指しており、業界の覚悟が問われている。