千葉大学は10月7日、二酸化炭素(CO2)または一酸化炭素(CO)から用途に合わせて、炭素数2もしくは3の飽和炭化水素「パラフィン」類、不飽和炭化水素「オレフィン」類を生成する光触媒について調べた結果、「コバルト-酸化ジルコニウム」(Co-ZrO2)光触媒に紫外可視光を照射することで、CO2から燃料として、炭素数が1~3のパラフィン類(順にメタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8))を生成できることが確認され、さらに、COからは炭素数が2と3のオレフィン類(順にエチレン(C2H4)、プロピレン(C3H6))が選択して生成することがわかったと発表した。
同成果は、千葉大大学院 融合理工学府のルミシ・タリク大学院生(研究当時)、同・石井蓮音大学院生(研究当時)、同・阿部一響大学院、同・李崇旭大学院生、同・原慶輔大学院生(研究当時)、同・張宏偉大学院生(研究当時)、同・大学院 理学研究院の泉康雄教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、独化学会の刊行する機関学術誌の国際版「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。
太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用して、CO2を燃料や有用な化学原料に変換できれば、環境問題の観点から有効と考えられているが、そうした技術を社会に実装する場合、生成物の価格やCO2変換のためのシステムにかかる費用などが、コスト的に成立するかどうかが重要となる。
光触媒を用いてCO2を光還元して得られる生成物の価格が、C1化合物であるCOやメタンの場合には、1kgあたり0.06~0.18ドルであるのに対し、C2やC3の炭化水素では、1kgあたり0.9~8ドルであるため、CO2を還元するためのエネルギーが自然エネルギーを利用して再生可能なことに加え、光触媒、還元反応装置(設備)にかかるコストが生成物の価格を下回ることが期待され、持続可能な社会での適用がより現実味を帯びてくるという。
そこで研究チームは今回、半導体の性質を有し、紫外可視光照射により「電荷分離」(電子と正孔が空間的に分離された状態)が起きる酸化ジルコニウムと、金属状に還元したコバルトナノ粒子を組み合わせた光触媒であるCo-ZrO2を用いて、C2およびC3の炭化水素を生成できることが見出されたことから、その選択生成のための光反応条件を詳細に検討することにしたとする。
具体的には、Co-ZrO2を用いてCO2光還元反応試験が行われたところ、メタンだけでなく、副生成物としてエタンおよびプロパンが得られたという。今回の研究では光反応経路を検証するために、通常のCO2の炭素原子を、質量の異なる安定同位体の「13C」(天然での存在割合は約1%)に置き換える「同位体標識」をした「13CO2」を反応物として用いることにしたとする。反応中にどのように炭素が移動し、どの化合物に変わるのかが質量分析で追跡されたところ、13C-エタンおよび13C-プロパンが生成されることが確認されたという。
また、同位体標識された「13CO」を用いた光還元の反応試験が実施されたところ、反応試験開始から4時間まで13C-エチレンが選択して得られることが判明したという。この結果を踏まえ、13CO光還元反応試験と真空処理および13CO暴露とを繰り返す試験が行われたところ、13C-エチレンおよび13C-プロピレンが各サイクルで主生成物(57~6mol%)となり、13C-メタンが副生成物として生成されたことが確認されたとする。
研究チームはこれまでの研究において、銀-ZrO2光触媒により、CO2をCOに選択還元することを報告済みであるほか、ほかの研究チームの成果からも、光触媒でもCO選択生成が容易であることが報告されているとのことで、今回の研究により、CO2からメタン、エタン、プロパンおよびエチレン/プロピレンを用途に応じて選択して得られることを示すことができたとしている。
メタンは安価だが、エタンやプロパンはより高価な燃料であり、さらに、エチレンおよびプロピレンは基幹化学原料である。また、CO2からのメタノール、エタノール、酢酸の光選択合成も魅力的なことから、研究チームは現在、水中での合成に関する研究も進めているとしている。