スウェーデンのカロリンスカ研究所は7日、2024年のノーベル生理学・医学賞を、線虫から「マイクロRNA」を発見した米マサチューセッツ大学のビクター・アンブロス教授(70)と、米ハーバード大学のゲイリー・ラブカン教授(72)の2氏に授与すると発表した。マイクロRNAは、遺伝子の転写の際に重要な役割を果たしているとされる。

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    ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった左からビクター・アンブロス氏、ゲイリー・ラブカン氏のイラスト(ニクラス・エルメヘード氏、ノーベル財団提供)

2018年の本庶佑氏以来となる、日本人の生理学・医学賞受賞はならなかった。

DNAの遺伝情報はメッセンジャーRNA(mRNA)に転写・翻訳され、タンパク質が作られる。1960年代から、遺伝子情報の制御は転写因子という特殊なタンパク質がDNAの特定の領域に結合し、どのmRNAを生成するかを決めると考えられていた。

だが1993年、アンブロス氏は体長1ミリの線虫から、タンパク質生成のコードがないマイクロRNAを発見した。同じ研究室に在籍していた両氏は、線虫で突然変異を起こす「lin-4」と「lin-14」という遺伝子に着目。lin-4遺伝子がlin-14遺伝子を阻害していることが分かった。

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    1億の塩基対を持つ線虫のゲノム(左)と、正常な線虫(右上)、lin-4突然変異体(右中)、linー14突然変異体(右下)(ノーベル財団提供)

アンブロス氏はlin-4遺伝子がタンパク質をコードせず、マイクロRNAをコードしていることを発見。ラブカン氏がlin-14遺伝子のクローンを作り、lin-4マイクロRNAがmRNAに結びつくことでlin-14を抑制し、タンパク質を作らせないような仕組みであることを見いだした。

論文発表当時は「線虫での結果に過ぎず、ヒトのような複雑な生き物には応用できない」と考えられていた。しかし、ラブカン氏らが2000年に動物界全体に存在する遺伝子でもマイクロRNAがあることを示したため、その後数年間で研究が進んだ。ヒトでもマイクロRNAに対応する遺伝子が2000種類以上あり、遺伝子調節に関与していることが明らかになっている。

カロリンスカ研究所は「マイクロRNAをコードする遺伝子に変異があると、様々な臓器に疾患や障害を引き起こす。あらゆる生命体に不可欠な遺伝子制御の新しい側面が明らかになった」などと評価した。今後、マイクロRNAは病気の診断や治療、新薬開発などに役立てる研究が進むことが期待される。

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    マイクロRNAのイメージ(左)。生物の進化や生理学、さまざまな病気に深い関わりを持つ(ノーベル財団提供)

賞金の1100万スウェーデン・クローナ(約1億6000万円)は2人で等分する。授賞式は12月10日にスウェーデンで開かれる。

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