生成AIの進化により、データ管理の方法が大きく変わりつつあります。企業は単なるデータの可視化や分析にとどまらず、生成AIを活用して高度なデータ管理手法を採用することで競争力を強化しています。

具体的には、生成AIを活用して、データクレンジングの統合、大規模なデータ変換の自動化、リアルタイムのデータモニタリングと異常検知などが可能になります。これにより、迅速かつ正確な意思決定を実現できます。

また、生成AIを活用したデータ管理は、AIのバイアスを減らす責任あるAIの促進にも寄与します。

データ管理の現状

インフォマティカの最近の調査によると、CDO(最高データ責任者)をはじめとする世界中の600人のデータ・リーダーの58%が、自社のデータ資産を管理するために5つ以上のツールを必要としています。このようなデータ関連ツールの複雑化と断片化は、データ形式やコンテンツが多様化し、異なるクラウドやSaaS、その他のシステムに分散してデータが保存されるようになるにつれ、さらに悪化することが予想されます。

この現状は、技術革新のサイクルが加速する市場環境において、企業が競争力を維持するためには、より効率的で精度の高いデータ駆動型の意思決定プロセスが不可欠であることを浮き彫りにしています。そのため、複雑化するデータ管理を簡素化し、迅速な意思決定を可能にすることが重要になっているのです。

AI時代において、データはより双方向的な特性を持つようになります。生成AIの導入により、データプラットフォームとデータ可視化ツールは、データをより動的な資産へと進化させ、ユーザーと「対話する」ようになります。この変革により、技術的背景を持たない人々でも、自然言語処理やレコメンデーションを通じてデータにアクセスしやすくなります。

データサイエンティストだけでなく、ビジネスユーザーまでデータユーザーを拡大することは、責任あるAIの実現に向けた重要なステップです。責任あるAIの実現には、データやコンピューターサイエンスの知識だけでなく、倫理学や言語学などの多岐にわたる専門知識が必要だからです。

しかし、この進展には慎重なアプローチが求められます。ビジネスリーダーは、楽観的な姿勢を保ちつつも、データ利用に関しては綿密な評価とガバナンスを実施する必要があります。特にデータアクセス管理とデータ系統(リネージ)の追跡は、信頼性の高いデータ駆動型の意思決定プロセスを確立するうえで不可欠な要素となります。

AIが実現する「データパイプラインの自動化」と「データ品質の確保」

生成AIはデータパイプラインの設計と運用を自動化し、リアルタイムのデータ分析を可能にします。これにより、企業はデータ管理にまつわるシステムの運用コストを削減し、データエンジニアの業務負荷を軽減しつつ、データから価値を引き出すまでの時間を短縮できます。

また、AIによるデータクレンジングと異常検知は、データの正確性と信頼性を高め、ビジネスインサイトの質を向上します。AIデータが適切にトレーニングされていない場合、バイアスが増幅されてしまう可能性がありますが、慎重な人間参加型(Human-in-the-Loop)プロセスと学際的なコラボレーションにより、AIはデータ品質を大幅に向上することができます。

データ品質管理の重要性は、今日のビジネス環境において一層高まっています。データ品質管理を適切に行わなければ、企業は保有するデータの潜在的価値を引き出すことができず、いわば「宝の持ち腐れ」状態に陥りかねません。

AIが適切なデータ管理に依存しているのと同様に、現代のデータ管理もAIの助けを必要としています。特にデータの急増と市場環境の急速な変化に直面する企業にとって、データを意味のある洞察に変えるプロセスを加速させるAIは非常に重要です。

生成AIを搭載したMDMを導入したSSM Health

企業の成長と拡大に伴い、データ管理の複雑さが増大するのは避けられない現象です。グローバル化、M&A、活発な研究開発により、企業は多様なシステムやツールを抱えることになり、データの分析や活用が複雑化します。

これらのシステムは往々にして、特定の部門やプロジェクトに最適化されています。その結果、組織全体でデータの保存方法や管理方法に一貫性が欠如し、データの断片化が生じます。生成AIを搭載したマスターデータ管理(MDM)は、システム間のデータ統合と管理を簡素化し、包括的なデータビューを提供します。

さらに、生成AIを搭載したMDMはデータガバナンスを強化する可能性を秘めています。具体的には、コンプライアンスの監視と実施を自動化し、一元管理することで、安全なデータ活用環境の構築を可能にします。

このアプローチの実例として、105億ドル規模の米国医療システムであるSSM Healthは、インフォマティカのMDMに加え、生成AIを搭載したデータ管理アシスタント「CLAIRE GPT」を使用して、ガバナンスが行き届いた安全で拡張性の高いセルフサービスのデータプラットフォームを構築しました。 SSM HealthはインフォマティカのMDMを使用して患者、支払者、医療提供者などのさまざまなソースからのデータを統合し、信頼性の高い「ゴールデンレコード」を作成しています。CLAIRE GPTはデータを理解し、さまざまなユーザーに適切な形で提示することで、コミュニティの健康増進に寄与するデータインサイトを提供しています。このプロセスにおいて、クラウドデータガバナンスとカタログも重要な役割を果たしています。統一されたデータ分類を持つことは、データとAIモデルの統合ガバナンスで信頼性の高い分析洞察を得るための基盤となっています。

3つの分野を中心に広がるデータ管理の将来

筆者は、データ管理の将来が、3つの主要な分野を中心に展開すると予測しています。

  1. 急速かつ広範囲にわたる技術的進歩
  2. 予想を上回るペースでのデジタルトランスフォーメーション
  3. 人工知能が社会や世界に与える影響への関心の高まり

AIや機械学習モデルの進化により、テキスト、画像、音声、動画などのさまざまな形式のデータが徐々に受け入れられるようになります。こうしたマルチモダリティの台頭により、データの複雑性が増すことが予想されます。

生成AIとデータ管理の融合は、将来のビジネスを構築する上で中核的な役割を果たすでしょう。クラウドベースの製品に生成AIを組み込むことで、企業はテクノロジーの簡便性と直感性を活用しながら、実用的な洞察を迅速に導き出しています。

データ管理に生成AIを活用する取り組みを通じて、企業は競争上の優位性を確立し、持続可能な成長を実現することができます。しかしながら、AIを活用したソリューションを採用するだけでは十分ではありません。AIがますますビジネスの必須条件となるなか、AIの倫理的で安全な利用を確保しながら、データインフラ、ガバナンスフレームワーク、従業員のスキルアップにも投資するなど、企業には総合的なアプローチが求められます。

森本 卓也

インフォマティカ・ジャパン株式会社

グローバル・パートナーテクニカルセールス ソリューションアーキテクト&エバンジェリスト

日本アイ・ビー・エム株式会社にて、ITアーキテクトとして10年以上に渡り金融を中心としたサービス活動を担当。数千人規模の超大規模プロジェクトの立ち上げから運用などをはじめ、DevOpsを中心としたコンサルティング活動にも従事。現在は現職にて、日本全国のお客様向けにデータマネジメントの推進、普及活動に尽力。