インターステラテクノロジズ(IST)は10月3日、事業拡大に向けて北海道帯広市内に同社5か所目となる新拠点の帯広支社を開設したことを発表。同日には開所式を行い、代表取締役CEOの稲川貴大氏が支社開設の意図を説明した。
大樹町本社の能力拡張を目指し新支社を開設
“宇宙の総合インフラ会社”を銘打つISTは、低価格で便利な宇宙サービスを提供することで宇宙利用を拡大することを目指すスタートアップで、現在は主にロケットの開発・製造・打ち上げを行っている。これまでには観測ロケット「MOMO」の打ち上げに挑戦し、国内の民間企業として唯一となる宇宙空間への到達に3度成功した実績を持つ。そして現在はその次世代機となる小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」の開発が本格化しており、各種要素試験を終えてフルスケールでの試験を進めている最中だとする。
ISTが本社を構えるのは、北海道大樹町。国内外・産官学を問わず利用可能な“商業宇宙港”「北海道スペースポート(HOSPO)」が位置する町で、有数の好立地にあるロケット発射場も備えており、MOMOの打ち上げもこの場所で行われてきた。また、ビジネス面での一大拠点と言える東京支社、新産業として宇宙開発を積極的に支援する南相馬市に位置する福島支社を有しており、さらに研究開発拠点として室蘭工業大学のキャンパス内に室蘭技術研究所を構えている。
ISTは2023年12月、ZERO用コンポーネントの製造本格化に合わせた生産機能の補完、そしてロケット開発の進行とともに手狭となった大樹町本社オフィスの拡張を目的に、帯広支社の開設作業に着手することを発表していた。なお当初は2024年夏ごろの稼働開始が予定されていたが、このタイミングでの開設となったことについて稲川CEOは「ISTの事業に対して影響を与えるものではない」と話す。
エンジンなどの組み立て・保管と物流能力を担う新拠点
新拠点は、もともと物流倉庫として利用されていた建物を借り受け、ISTのパートナーシッププログラム「みんなのロケットパートナーズ」に参画する萩原建設工業による改装工事を行ったとのこと。ロケット市場のグローバル競争を生き抜くために迅速な開発が求められる中、開発の総本山である大樹町本社に近い場所での新拠点開設を画策していたといい、拠点立ち上げまでのリードタイムを短縮するために既存の建物を活用できる帯広の地を選定したとする。
建物1階部分は、エンジンやそれを支える支持構造部、機体の胴体構造部などの組み立ておよび保管を行う製造拠点で、またさまざまな資材や部品の保管・輸送に活用できる物流能力としても効果を発揮するといい、実際のフライト用機体で用いられる胴体構造部品などもすでに搬入されていた。なお、現在は広く空間が残された帯広支社にも今後3Dプリンタをはじめとする製造用機器が続々と搬入される予定だといい、稲川CEOは「ロケット製造が本格化して半年もすればこの支社も埋まっていると予想される」と話した。
また建物内には、特に精密な作業が求められるターボポンプやバルブなどの組み立て作業を行うためのクリーンルームも設置。清浄度が担保された空間での作業が行えるようになり、特に対外的に品質を保証できるというメリットがあるとしている。
一方の2階はオフィススペースで、最大収容人数は50人規模とのこと。現時点ではおよそ20人が勤務しており、徐々に人員獲得も進めていくとする。
北海道での新拠点開設は「グローバル市場で勝つため」
なお稲川CEOによると、この帯広支社でロケット全体を組み立てる予定はなく、全体の組み立ては大樹町本社工場にて行うとのこと。新支社では本社とも密に連携しながら、ZEROの開発加速に貢献するという。ISTの現在地については「まだまだ道半ばどころか初期段階で、今後も成長していかなければグローバル市場では戦っていけない」と冷静に分析し、安価かつ高頻度な国産ロケット打ち上げ体制を実現するため、前進し続けるという覚悟をのぞかせた。