大阪公立大学(大阪公大)は10月2日、全固体ナトリウム電池実現の鍵を握る、新たな塩化物固体電解質として、塩化物固体電解質「NaTaCl6」に添加物「五酸化タンタル」(Ta2O5)を加えることで、室温で実用化レベルを超える導電率10-3Scm-1を達成したこと、ならびに開発された固体電解質は従来のものと比べて、電極活物質との副反応が生じにくく、耐久性などの機械的特性も優れていることなどを発表した。
同成果は、大阪公大大学院 工学研究科の本橋宏大助教、同・塚崎裕文特任准教授(研究当時)、同・作田敦准教授、同・森茂生教授、同・林晃敏教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する材料に関する化学の全般を扱う学術誌「Chemistry of Materials」に掲載された。
CO2排出抑制などに向けて、化石燃料による内燃機関からバッテリーによるモーター駆動へのシフトが進んでおり、それに伴い、リチウムイオン電池に代表される二次電池の需要も高まり続けている。しかし、リチウムやコバルトなどのレアメタルは産出地に偏りがあるなど、継続的した安定供給の維持が懸念されており、元素戦略的により有利なナトリウム電池が注目を集めつつあるという。特に、可燃性の有機電解液を使用せず、無機固体電解質に置き換えた全固体ナトリウム電池は期待されており、その実用化に向けた研究開発が各所で進められている。
全固体ナトリウム電池の実用化で鍵を握るのが固体電解質であり、中でも2018年に塩化物が優れたイオン伝導度と酸化耐性、成形性を持つことが報告されたことから、新規材料群として注目を集めるようになっている。そこで研究チームは今回、過去に研究チームが報告したナトリウムとタンタルと塩素からなる非晶質系塩化物NaTaCl6に着目。ガラス形成則で中間酸化物に属するTa2O5を添加することで、室温で10-3Scm-1以上という導電率を示す塩化物固体電解質「Na2.25TaCl4.75O1.25」を見出したという。
この固体電解質を詳細に調べたところ、Ta2O5の添加前と比べて非晶質相の割合が増加することで、室温での導電率が大きく増加したことが判明したとするほか、遊星型ボールミル装置を用いたメカノケミカル法によって合成された今回の塩化物固体電解質は、ナトリウム、タンタル、塩素、酸素からなる非晶質相マトリックス中に、ナノサイズのNaClとTa2O5結晶が分散していることが確認されたとする。
さらに、今回の研究で得られた塩化物固体電解質は、これまでに報告されてきた、ナトリウムイオン伝導性を示す「Na3PS4」や「Na11Sn2PS12」などの硫化物や、「Na3Zr2Si2PO12」などの酸化物よりも、高い導電率を持つこと判明したとするほか、従来の塩化物よりも電気化学的安定性が高いこと、ならびに機械的特性に優れることも確認されたという。
なお、研究チームでは、今回の研究から非晶質相中にナノサイズの結晶が分散した複合固体電解質が、優れた電気化学特性と機械的特性を有することが示されたことから、これまでのガラス系や結晶系の固体電解質に加えて、複合体系の固体電解質開発に貢献することが期待されるとしており、今後、複合固体電解質のイオン伝導機構の解明や、さらなる材料開発に取り組んでいくとしている。