東京大学(東大)、三洋化成工業、本田技術研究所、大阪大学(阪大)の4者は9月20日、体にやさしく長持ちする最先端のハイドロゲルを使い、皮膚に貼って用いる中空型針状センサを開発したことを共同で発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻の高井まどか教授、同・三宅亮特任教授、同・笠間敏博特任准教授、同・周詩承大学院生、同・栾奕男大学院生、三洋化成工業 バイオ・メディカル事業本部 医薬品研究グループの千野裕太郎主任、本田技術研究所 先進技術研究所 安全安心・人研究領域の光澤茂信チーフエンジニア、阪大大学院 医学系研究科 統合薬理学の日比野浩教授(日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業 兼任)、同・Norzahirah Binti Ahmad大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンス/テクノロジーに関する全般を扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。

多彩な生体情報をリアルタイムで計測可能な、生体装着型の小型ウェアラブルデバイスのニーズが高まりつつあり、健康状態などを把握するためのバイオマーカーとなるような、グルコース(ブドウ糖)やイオンといった生体内の生化学物質を低侵襲にモニタリングするデバイスが求められているが、その実現にはまだ数多くの解決すべき課題があるという。

その課題の1つが、どのように体内の生化学物質をモニタリングするのかという点。生化学物質は血液を筆頭に、汗、唾液、涙などに含まれているが、現在の医療では血液中から採取されるのが一般的だ。しかし、血液は、ある程度の太さの針を皮膚に刺して採取する必要があり、痛みを伴う。それを考慮すると、できるだけ痛みを伴わない方法を用いつつ、それでいて正確なバイオマーカー情報を取得できる手法が求められている。

そうした中で注目されているのが、最近になって、「細胞間質液」中の成分が、血液にとても近く、良い相関があることが報告された点。皮膚のすぐ下に存在する体液も細胞間質液なので、それを対象とするのであれば、通常の注射針よりも細く短い針を利用できるという。また、針にセンサを組み込むことで、バイオマーカーをリアルタイムで連続的にモニタリングすることも可能とした。そこで研究チームは今回、皮膚に貼って間質液中のバイオマーカーを連続的に検出する針状センサの開発に取り組むことにしたという。

  • 皮膚に貼り、生体内のバイオマーカーを連続計測する針状センサ

    皮膚に貼り、生体内のバイオマーカーを連続計測する針状センサ(出所:阪大Webサイト)

今回の研究では、皮下細胞間質液に含まれるバイオマーカーを検出するため、生体適合性に優れた中空型針状センサが開発された。同センサは、従来の針よりもはるかに小さく、長さが約1mm、先端の穴の直径が50マイクロメートルであるため、皮膚を貫通しても神経末端や毛細血管を避けることができ、痛みを劇的に低減できるとする。

  • 中空構造を持つ針状センサの作製手法

    中空構造を持つ針状センサの作製手法。リソグラフィー技術で中空構造の針のテンプレートを作製した後、ポリ乳酸をコーティングし、テンプレートを除去することで、ポリ乳酸製の中空針が作製された。金めっきが施された後、針の内部にグルコース応答機能を持つ双性イオンポリマーハイドロゲルが埋め込まれ、中空型針状センサが完成(出所:阪大Webサイト)

現在報告されている、細胞間質液からのグルコース計測を行うことのできる針状センサの多くは、穿刺(せんし)用の針へ単にグルコースに応答する感応膜を重ね合わせるだけの単純な構造だという。それに対して今回のセンサは、中空の針の先端に穴が開いており、その内部がセンサとして用いられることが大きな特徴だとする。なお、針の材料には、生体に安全なポリ乳酸が使われている。またセンサの電極には、体に負担のない金めっきが施された。そして、グルコースなどのバイオマーカーを検出する物質を練り込んだハイドロゲル感応層が、中空の穴に埋め込まれた針状センサが作製された。中空の針状電極にハイドロゲル感応層を埋め込むという設計は、従来に無いものとしている。

  • 中空型針状センサのin vivoにおける連続グルコースモニタリング

    中空型針状センサのin vivoにおける連続グルコースモニタリング。(a)ラットの側腹部に貼り、グルコース計測している様子。(b)中空型針状センサ(青)を用いたグルコースレベルの連続動的モニタリングと市販血糖測定器(黄)との比較(出所:阪大Webサイト)

この新型センサの性能について、これまでにあった針の外側にハイドロゲル感応層を張り合わせたものとの比較検証が、数値シミュレーションと実験を組み合わせて行われると、ポリマーを用いたハイドロゲルの水環境が酵素の活性を維持する仕組みにより、今回の新型センサは応答性、感度において大きな向上が認められたとした。

次に、この新型センサを、動物(今回の研究ではラット)に装着し、リアルタイムで正確に血糖値をモニタリングできるかがテストされた。その結果、血液中のグルコース濃度と、センサで検出された細胞間質液のグルコース濃度の高い相関が得られたという。さらに、生物学的安全性試験により、ヒトとマウスの細胞に対する毒性がないことも確認されたとした。

研究チームは今後、センサの機能を拡張し、複数のバイオマーカーを同時にモニタリングできるようにすることで、さらなる個別化医療の拡充を目指すという。具体的には、今回の針状センサに無線信号伝送システムを組み合わせ、遠隔かつリアルタイムで健康をモニタリングできるようにしたいとしている。