「M&Aを始めた当初は、経営難に陥った会社を再浮上させるといった、いわゆる再生案件でした─」と語るのはコロワイド社長の野尻公平氏。2020年の『大戸屋』買収時には、経営陣と対立した敵対的TOBであったが、コロナ明けにはブランド過去最高益のV字回復を達成。同社は経営不振の会社をどのように再生しているのか、M&A基本軸を聞いた。
M&Aを成長戦略としてきたコロワイドグループ
1977年、手作り居酒屋「甘太郎」を出店してから、M&Aを成長のエンジンとして大企業へと歩みを進めてきたコロワイドグループ。現在はレストラン業態の店舗割合が9割を占める。M&Aではこれまで数々の再生案件に直面し、多くのブランドを蘇らせてきた。2002年から現在まで、M&Aにより売上2000億円以上伸長させている。
中でも2020年の「大戸屋」買収は、経営不振に陥っていた経営陣と対立した敵対的TOBとして話題となったが、買収後のコロナ明けにはⅤ字回復させ、ブランド過去最高益を叩き出した。コロワイド社長の野尻氏は、これまで行ってきた同社のM&Aについて次のように語る。
「経営難に陥った会社は、例えばブランド力はあるのに他の事業に手を出して失敗したというような会社でした。その経営にのしかかった、いわば漬物石のような重しを取り除き、本業で伸びていけるよう立て直しを図ってきた。当社からは新しい社長だけを派遣し、元々その会社で頑張ってきた方々に活躍してもらう。重しを取り除かれたことで社員が自由闊達になって、『自分達でとにかく頑張ろう』と潜在力を掘り起こすことで会社が成長に向かっていく。サービス業はやはり一人一人のモチベーションや意識が最重要」
経営はヒト・モノ・カネと言われる。「やってみて失敗したことは問わない」という創業者会長・蔵人金男氏の「3勝5敗くらいの気持ちでいいんだ」という経営理念がある。「見逃し三振は許されないが、空振り三振は良し。失敗から学び次に生かせば良い」。野尻氏はこの創業者の教えを軸に、買収後は社員達自身が自らの手で会社を立ち直すという手法をとってきた。また、「買収企業のグループ参画後の一体感醸成も重視し、社員のやる気を引き出す」という蔵人氏の教えも、組織運営における基本的な考え方だという。
野尻氏は証券会社出身で、1993年に同社に入社。2012年に社長就任してから10年以上経つが、この間実施してきたM&A案件は9社。再生案件で苦戦したブランドは『かっぱ寿司』だという。しゃりを変え、原料の質を高め、商品開発に力を入れ、広告を打ち続けても、デフレの中での価格競争で伸びてきた「かっぱブランド」は、買収前の〝安かろう不味かろう〟の顧客イメージをなかなか覆せずにいた。
しかし改善施策の継続により、「美味しさ」がやっと顧客に浸透し、2024年3月期では売上高721億円、営業利益16億円の黒字化に成功。8月20日には、最大367億円を公募増資で調達しM&Aに充てる旨を発表。今後もM&Aを積極推進し、更なるグループシナジーを発揮していくとしている。
海外・給食事業を成長戦略に
国内は人口減少で市場が伸びない中、海外市場開拓は重要な選択肢の1つ。ただし国内事業で伸びる分野もある。病院・介護施設の給食業界は、高齢者人口は増えており市場の成長が見込める。
同社は病院や福祉施設向け給食事業を展開するニフス(売上高50億円)を3月に、またソシオフードサービス(売上高80億円)を5月に買収した。更に給食事業を展開する日本ゼネラルフードとJV(ジョイントベンチャー)を設立し、コロワイドが51%出資を行うなど、本格的に給食事業の規模拡大を狙う。
「長期的には国内は人口減で胃袋の数は減る。外食業界は参入障壁が低く、競合が町にうごめく。美味しくて安全、手頃でなければ生き残りは難しい。当社はその環境で、味や効率性は相当鍛えられてきた。給食業界に参入しても十分戦っていける」と野尻氏は語る。
コロワイドグループの最大の特徴は、多業態であること。焼肉店では業界最大手の「牛角」、「しゃぶしゃぶ温野菜」、「大戸屋」、「かっぱ寿司」「フレッシュネスバーガー」など全20ブランドを運営。
味もコストも磨かれた和洋食(デザート含む)のブランドを多数持つ点が、毎日3食の献立が必須の給食事業では強みとなる。既に大学や社員食堂での事業給食を展開する中で、「例えば『かっぱ寿司』や大戸屋定番の『黒酢あん定食』を出すと、お客様にはとても喜んでもらっています」と野尻氏。学生や事業所従業員は、割安で店舗の味を楽しめて満足度が高く、強い手応えを実感しているという。
給食事業はコロワイドが持つセントラルキッチンがキーとなる。ミールキットを作り、店舗での仕込みを軽減して、食材の生産、調達、製造、物流まで一括で行う独自のマーチャンダイジング戦略で、コスト削減を含めた経営効率化を図る。
まだ実験段階であるが、給食事業ではAIを活用し、管理栄養士がやっていた献立作成や食材アイテム数の削減、配送量の調整など更なる効率化を見込む。
豊富なノウハウのある外食大手企業が給食事業に本格参入することは、専門企業が多くを占める業界への大きなインパクトだ。
2024年3月期の売上収益は2412億円。現在の事業割合は、国内外食事業が87%、海外外食事業が13%となっていて、給食事業は0.3%と小さいが、これを2030年には海外事業30%、給食事業20%まで育て、連結売上収益5000億円を目指す。
現在外食業界では、ゼンショーホールディングス、日本マクドナルド、すかいらーくグループなどが上位にいる中で同社は5番目の位置。同社は多様性があることが強み。内需を掘り起こし、シナジー効果を常に出していくことが求められる第2ステージに突入したといえる。