サイボウズはこのほど、同社が提供する「kintone(キントーン)」のユーザーイベント「kintone hive(キントーンハイブ)」をZepp名古屋で開催した。kintone hiveは、kintoneの活用アイデアをユーザー同士で共有するライブイベントで、企業や団体が活用ノウハウをプレゼン形式で発表する場だ。
2024年の「kintone hive」は広島、札幌、福岡、大阪、名古屋、東京の6カ所で開催された。本稿では、名古屋会場に集まった興和工業所のkintone活用事例を紹介する。なお、地区代表に選ばれた桜和設備の事例はこちらの記事で紹介している。
創業77年目で従業員数が1000人が超える金属総合加工企業である興和工業所は、2017年にkintoneを導入した。2024年6月現在、アカウント数は120、実運用アプリ数は200。国内だけで22ある工場でもアプリ作成者がいるほど、kintoneを積極的に活用できている興和工業所。
「でも、まだまだ足りない…」と話すのは、2023年4月に新卒社員として入社し、9月に情報システム部門に配属された片山美紀さん。社内の常識をkintoneで変えた、情シスによる伴走支援とは。興和工業所の講演では、「kintone活用の広げ方」について紹介された。
kintone導入から7年目の老舗企業の現状
興和工業所における経営の屋台骨にあたるのはめっき事業だ。鉄がさびるのを防ぐために、溶かした亜鉛で鉄の表面をコーティングする技術は「溶融亜鉛めっき」と呼ばれる。鉄を屋外で使う場合に導入される代物で、溶融亜鉛めっきのシェア日本一が興和工業所だという。めっき事業のほか、塗装や金属加工、メーカー、溶接などさまざまな事業があり、特色の異なる部や工場がある。
そんな同社は、基幹システムのデータを社外と共有したいという工場の要望に応えるため、2017年にkintoneを導入した。社内の業務改善だけでなく、外注企業とデータをシェアする感覚でkintoneを使い始め、他社とのやりとりを激減させた。
またkintoneの導入後、一部の工場から「面白そう。教えてほしい」といった声が上がり、kintoneの使い方の説明会を各工場で実施。kintoneの活用がどんどん広がっていったという。客先とのデータ共有も増加し、全社的にkintoneユーザーも増えていった。
もっとkintoneで業務改善してほしい……“伴走支援班”が始動
しかし、課題もあった。それは、社内の良い活用事例が共有されておらず、社内ユーザーの交流が少ないこと。また、大半は人が作ったアプリを使っているだけのユーザーだった。
「もっともっとkintoneで業務改善してほしい」(片山さん)との思いで、情シス部門内に「伴走支援班」が2023年11月に誕生した。伴走支援班の目標は、誰でも主体的にシステム化できる土壌を作ること。全社でkintoneの知名度を上げ、個別支援を積極的に実施し「いずれは支援も不要にすることが目標」(片山さん)だ。
同チームはまず、kintoneの知名度を上げるために、kintone活用者へのインタビュー記事を社内に発信した。2時間のインタビューと1カ月に及ぶ記事作成を実施。アプリ作成者の経歴や作成したアプリの情報、他の人へのアドバイスなどを記事に盛り込んだ。
反響は大きかった。「あれならうちでも使えるかもしれない!」「○○工場にも説明会に来てください」といった声が情シスに届き、そして「実際にアプリを使ってみたいです」といった要望も届いた。伴走支援班はお試しアプリを作成し、全社で使えるようにした。
興味を持ってくれた人に対しての支援は手厚く行った。kintoneの3カ月分のトライアル費用を情シスが負担し、まずは気軽に試せる環境を整えた。「触る時間がないから導入してもすぐには効果が出せない。上司に納得してもらえない」という人に対しては、サンプルアプリ作成の代行も行った。「最初に利用料分の実績を出してもらうように支援しました」と片山さんは振り返る。
社内でkintoneの知名度はうなぎ登りに上がっていった。情シスが実施した社内ユーザー会では会場を埋め尽くすほど大盛況ぶりで、初心者向けの講習会に応募する人も増えていった。
伴走支援班による半年間の活動、その効果は?
伴走支援班による半年間の活動は、どのような成果を上げたのだろうか。
アカウント数は170と1.4倍になり、アプリ作成ユーザー数は28人と約2倍になった。また、実運用アプリも300と約1.5倍になり、部・工場が主体となって作成した実運用アプリは 98にも上る。活動前にkintoneを活用していた拠点は8つしかなかったが、伴走支援班の支援により20拠点まで増えた。
社員からもさまざまな声が寄せられ、「新しい興和工業所の幕開けを感じた」というコメントもあったという。
「『誰でも改善できる』はあらゆる人の希望になるはずです。今までなかった、あるいはコロナ禍でなくなった交流の場をkintoneで実現していく。組織を超えて助け合える会社へと成長していきたいです」(片山さん)