ispaceは9月12日、月面着陸・探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション2の開発進捗に関する記者発表会を開催。月面へと飛び立つ月着陸船のフライトモデルを公開するとともに、具体的な打ち上げ予定時期や最後のペイロードなどを発表した。
月面着陸への再挑戦は最速で2024年12月に
「人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界を目指す」というメッセージを掲げるispaceは、日本の民間初となる月面着陸を目指すHAKUTO-Rミッションに向けた開発を進めている。
2022年12月には、ミッション1として月面探査機(ローバー)を搭載した月着陸船(ランダー)を打ち上げ、2023年4月には月面着陸に初めて挑戦したものの、ランダーの高度認識で生じた不具合により軟着陸に失敗。民間初の偉業達成は、その目前で持ち越しとなった。しかし袴田CEOによれば、HAKUTO-Rミッション1であらかじめ設定された10段階のマイルストーンのうち8段階目までは達成され、大きな成果を得たとのこと。そして、ミッション1で得られた知見や課題などを踏まえながら、迅速にミッション2の開発を進めてきたとする。
今回の会見では、ミッション2で打ち上げる「RESILIENCEランダー」について、地上試験が順調に進んでいることを報告。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の施設を利用した熱真空試験や振動試験を完了し、最終段階の全機能試験を行っているという。ispaceの氏家亮CTOは「技術的に難しい点は多くまだ気は抜けない」としつつも、ここまでの試験などについては「とても順調に来ている」と経過を報告した。
また、月面にてランダーから飛び出し探査を行う「TENACIOUS Micro Rover」については、ルクセンブルクに拠点を置く欧州法人のispace EUROPEで開発を行い、環境試験までを完了したうえで日本へと輸送され、RESILIENCEランダーに搭載された。
さらに今回、袴田CEOがミッション2ランダーの打ち上げ時期を発表。「最速で2024年12月に打ち上げ予定」であることを明言した。なお打ち上げ場所は、2022年のミッション1ランダー打ち上げと同じく米国フロリダ州ケープカナベラルで、SpaceXのFalcon9ロケットによって打ち上げられる予定だ。
月面の着陸予定地や最後のペイロードなども相次いで発表
会見の中では、ispaceの氏家亮CTOより、月面におけるランダーの着陸予定地も公表された。予定される主着陸地点は北緯60.5度、西経4.6度で、「Mare Frigoris(氷の海)」の中央付近とのこと。決定理由について氏家CTOは「ペイロードの顧客に提供できる価値がなるべく大きくなるように設定することが前提」としつつ、「ミッション1の経験を踏まえ、着陸予定地から離れた場所まで地形を評価したうえで決定しており、ランダーは平坦な場所を選んで着陸する予定だ」と話した。
さらに、これまでispaceの月面探査車「TENACIOUS Micro Rover」を含む5つが発表されていたペイロードについて、そのTENACIOUS Micro Roverに搭載する形となる最後のペイロードが、スウェーデンを拠点に活動するアーティストのMikael Genberg氏が取り組む「The MOONHOUSE」に決定。スウェーデン調に白く縁どられた赤の小さな家を月面に建てることを目指すこのプロジェクトがペイロードに加わったことで、今回110mm×64mm×86mm程度の家がローバーに取り付けられたといい、月面でのローバーの活動により“月の家”の実現を目指すとする。
また、今般新たに東京計器とispaceとの間で契約を締結し、HAKUTO-Rのサポーティングカンパニーに加わったことも発表。ランダーや月周回衛星に搭載可能な宇宙用機器の開発に向けて、協業を行っていくとした。
袴田CEOはいよいよ打ち上げが近づくミッション2について、「初めての挑戦だったミッション1とは違い、今回は前回の経験があるため、これから起こることがある程度想像できる」としたうえで、「ある程度安心しながら進めることができているものの、月面着陸は決して簡単なものではないので、気を抜かず挑戦を続けていきたい」と語った。