セールスフォース・ジャパンは9月5日、Salesforce Data Cloudの最新イノベーションと国内事例・ユースケースに関するプレス・アナリスト向け説明会を開催した。説明会では、セールスフォース・ジャパンの製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 シニアマネージャーの前野秀彰氏がData CloudとEinstein 1に関するイノベーションについて最新状況を解説した。また、Data Cloudを採用しているイーデザイン損保のIT企画部/ビジネスアナリティクス部の須田雄一郎氏が登壇し、活用事例について紹介した。

Salesforce Data Cloudの概要

Salesforce Data Cloudは、Salesforce CRMとネイティブに連携し、企業が持つあらゆるデータを統合して顧客体験を向上させるデータプラットフォーム。また、Einstein 1とも連携しているため、Data Cloudの持つデータを基に、生成AIを活用して顧客サービスを強化するとともに、ビジネスの成長を支援しているサービスだ。

最初に前野氏は、データ活用の課題として「すべての従業員が日常にデータから示唆を得られていないのでは?」という点を挙げた。

  • データの活用に関する課題

    データの活用に関する課題

昨今では、業務ユーザーがいつでも専門知識やスキルが無くても簡単にスピード感を持ってデータを扱えることが理想ではあるものの、現実的にはIT部門の助けが必要であったり、データベースやSQL(データベース言語の中で最も普及しているプログラミング言語)の知識が必要となっている。

特に「Webエンゲージメントデータ」「別事業部の顧客接点データ」「購入履歴データ/契約データ」「製品利用データ」といったデータに関しては、CRM(顧客関係管理)上にこれらのデータが集約されていないことが大半だという。

「日常的なデータ活用のための『ラストワンマイル』に焦点を当てたデータ戦略が必要です。Salesforce Data Cloudを利用することで、CRM内外にあるデータを接続、連携、調和させて統一された顧客プロファイルを作成し、あらゆる顧客接点でスムーズにデータを活用できるようになります」(前野氏)

  • セールスフォース・ジャパンの製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 シニアマネージャーの前野秀彰氏

    セールスフォース・ジャパンの製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 シニアマネージャーの前野秀彰氏

ゼロコピーインテグレーションとは

また、同社では、生成AIモデルにビジネスの文脈を与えるアプローチとして、指示を実行するために必要なデータをプロンプトに追加する「プロンプトへのグラウンディング」という手法を取っている。

既存の学習モデルに対して、データを追加する、新しい層を設けるなどして調整を行った上で再びモデルへの学習を行っていく手法であるファインチューニングと比べて、低コストで制御しやすいという利点があるという。また、業務の中で蓄積してきたCRMデータをAIへすぐに活用できることも強みとされている。

一方で、企業内で分散しているCRMの外にあるデータも精度向上には必要不可欠となっており、いかにAIへ活用できるようにするか、という点が重要になるという。

「CRM外のデータの活用によりユースケースはさらに広がっていきます。サービス利用データについては、サービス利用状況に基づくプロアクティブな提案支援行えるようになり、Webアクセスデータについては、Webサイト利用状況に基づく効果的なアプローチメールの作成を実施できるようになります」(前野氏)

  • CRM外データの活用によりユースケースはさらに広がる

    CRM外データの活用によりユースケースはさらに広がる

同社が「ゼロコピーインテグレーション(Bring Your Own Lake:BYOL)」と呼ぶものは、企業のデータをSalesforce Data Cloudへ拡張することで「可視化とデータ共有を容易に実現」「迅速なデータ統合」「データを瞬時に検索」といったことを実現する。ゼロコピーインテグレーションはデータレイクとのあらゆる連携をサポートしているという。

イーデザイン損保の活用事例

説明会の後半には、Data Cloudを採用しているイーデザイン損保の須田氏が登壇し、Data Cloudの活用事例について紹介した。

Data Cloudを採用しているイーデザイン損保は、2009年に創業した東京海上グループのネット損保で、デジタルネイティブ層が加速する中、従来のダイレクト保険会社とは一線を画したビジネスモデルへの変革に取り組んでいる企業。

取り組みの契機となった潮流としては「究極のCX実現ニーズの高まり」「DX加速に向けたレガシーシステム(2025年の崖問題)からの脱却」という2点が挙げられており、須田氏は「全社一丸となった『CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)を起点としたデジタル保険会社へのトランスフォーメーション』にチャレンジしていくこととした」と説明した。

加えて、同社では取り組みの一環として、事故のない世界を共創する新しいタイプの自動車保険である「&e」をリリースしている。

「全社の取り組みの第1弾として、従来の自動車保険とは一線を画す『&e』を2021年にリリースしました。そして、このサービスを通じて2021年度のIT協会『IT最優秀賞』を受賞しました」(須田氏)

  • イーデザイン損保のIT企画部/ビジネスアナリティクス部の須田雄一郎氏

    イーデザイン損保のIT企画部/ビジネスアナリティクス部の須田雄一郎氏

今後、台頭するデジタルネイティブ層に向けて、あらゆる保険の手続きをスマートフォンで完結できるようにしたことに加え、センサが検知した衝撃やGPSデータを基に運転データを分析・診断することで安全運転に寄与している。

また、蓄積された運転データなどと、街や行政、企業といったデータを組み合わせ「データで事故のない世界を創造する」ことを目標に掲げている。

「『事故のない世界』を実現するためには、お客さまに&eの良さを実感してもらい、契約の更新を続けてもらう必要があります。そのためには顧客体験を充実させる必要があり、メールなどによるコミュニケーションが必要でしたが、従来は社内システムに保持している契約データなどを使った画一的なやりとりしかできませんでした。顧客の行動ログや運転データなども参照することで、よりパーソナライズされたコミュニケーションを実現したいという想いを持っていましたが、そのためには手作業によるデータの加工や編集が伴い、正確性や機動性に欠けるという課題がありました」(須田氏)

異なるデータソースのハブとなって一元的に管理する仕組みの導入が急務となっていた&eにとって、Data Cloudの特徴である、豊富なコネクタ類やシンプルなユーザーインターフェース(UI)、Salesforce製品とのシームレスな連携はちょうど求めていた機能だった。現在は統合データ分析基盤を整備しており、今後もデータやAI(生成AI)を徹底活用して、さらなる顧客体験の向上や新たな価値提供を行っていくとしている。