どんな社会を目指すのか
戦後79年が経った。今後、わたしたちはどんな社会(国)を目指していくのか─。
今夏は炎天下が続き、南海トラフ地震の一環とされる大地震、大型台風、水害と天変地異にも見舞われた。
コロナ禍は一段落し、インバウンド(訪日観光客)が増え、いろいろな国や民族の人々との交流も活発になった。一方でロシアのウクライナ侵攻は続き、中東ではイスラエルとイスラム系勢力との戦闘・紛争に終わりが見えない。
そうした混沌・混乱の中をどう生き抜き、新しい国際秩序をどう創り上げていくかという命題。
人はなぜ争い、国同士の戦争はなぜ無くならないのか─という重い課題をわたしたちは背負っている。
『答えのない時代』と言われて久しい。しかし、困難の中から一条の光を求めて、何とか世界の英知を集め、手を取り合うことはできるはずだ。
世の中には、争い事を追いかける人ばかりがいるのではない。不条理、不可解な事が多い中でも、何とか解決策を見出そうとする人たちも少なくない。
『たとえ地球が明日滅びるとも、君は今日リンゴの木を植える』─。これは宗教革命家、マルチン・ルターが言った言葉とされるが、大事なのは、どう生き、どう人々と連帯して、あるべき姿を追求し続けるかという覚悟と使命であろう。
新総裁に期待するもの
政治の混迷が続く。岸田文雄首相が9月の自民党総裁選への不出馬を表明。人々の関心は次の新総裁に誰がなるのかに向かっているが、残念なのは、後継候補と目される人たちから「日本の舵取りをこうする」という根本策・本質議論が聞こえてこないことだ。
米中対立、ウクライナ戦争、北朝鮮の相次ぐミサイル発射と厳しい国際状況の下で、日本の安全保障をどう図るのか。
台湾有事の際、沖縄をはじめ、米軍基地のある国内の関係先はどのような状況に置かれ、わたしたちはどう行動するべきか。緊急事態への備えが不十分だと指摘する声は多い。
自分の国は自らの手で守るのが主権のある独立国家のならい。先の大戦で敗戦国となり、GHQ(連合国軍総司令部)の占領下から再出発した日本。1952年(昭和27年)に主権が回復した後も、米国の軍事力に守られてきたという歴史。
日本は日米同盟の下、防衛や外交を進めてきたわけだが、国家を運営していく上での根本を本当に体得しているのかどうか。本質を衝いた議論が必要だ。
経済再生、外交・安全保障、そして教育、東京一極集中の是正、都市と地方の共生など、抱える課題は多い。日本の強さと弱さを直視し、強さ・良さを伸ばし、弱さを克服していく人物を新しい総裁に選びたいものだ。
大阪万博で潜在力発揮を
大阪万博(日本国際博覧会)が2025年4月13日から10月13日までの半年間、大阪市の人工島・夢洲で開かれる。
前回の大阪万博は1970年(昭和45年)に開催されたが、その時は『人類の進歩と調和』をテーマに、各国からさまざまな展示がされ、延べ6421万人強の人々が万博を訪れた。
高度成長期の前回と違い、今回は日本経済の曲がり角にある時の開催とあってか、開催自体に否定的な声もあるなど、いろいろな意見があった。しかし、開催まであと8か月余りに迫った今、今回の大阪万博も何とか力を合わせて成功させたいものだ。
特に、世界が分断・分裂に行きがちな折、人と人、国と国をつなぐという万博の精神を生かし、人類共生の方向に持っていきたい。
地元・大阪の経営者・企業人も奮闘しておられる。
「大阪ヘルスケアパビリオンというのがあって、そこにはわたしどもが事務局になって、いろいろな地銀とか信用金庫を含め、関西の中小企業のチャレンジテーマを実践するようなものをつくっています」と大阪商工会議所会頭の鳥井信吾さん(サントリーホールディングス副会長)。
例えば、ウェルネスオフィス。多くの人が一日の大半を過ごすオフィスを再現し、採血なしで血糖値を測定したり、毛髪のストレスホルモンを測定してストレスチェックをするといったものなど、健康を実現するテクノロジーやサービスを展示する。
「オフィスは単なる仕事の場所ではなくて、健康を維持する場所に変わる可能性がある。それをいろいろな中小企業の方にテーマとして取り組んでもらっています」
鳥井さんはこう語りながら、「本当の意味でのウェルネスオフィスができるのはまだ5年とか、10年とかかかると思いますが、そのきっかけになるようなものを展示していきたいと思います」と訴えられる。
日本には、地力のある中堅・中小企業が多い。ぜひ、万博でその潜在力を発揮してもらいたい。
魚谷雅彦さんの青春
資生堂会長・魚谷雅彦さん(1954年6月生まれ)は同志社大学を卒業後、ライオンに入社。営業畑で働いた後、米コロンビア大学でMBA(経営学修士)を取得。シティバンク、クラフト・ジャパン(現モンデリーズ・ジャパン)を経て、日本コカ・コーラの社長・会長をつとめたプロ経営者。
そして、2014年資生堂社長、23年会長に就任という足取り。「世界で勝てる日本発のグローバルビューティカンパニー」を標榜し、改革を推し進めた。
資生堂は24年1~6月期の連結決算で純利益が前年同期比99.9%減の1500万円と厳しい結果となった。中国市場での販売落ち込みと構造改革費用が重なっての減益である。
今後、欧米市場での営業強化やインバウンド増加を背景にした空港での免税品販売などに注力し、持続的な成長を図りたいとする。
コロナ禍など、有事の際、自分たちのビジネスは何ができるのか─という視点で改革を進めてきた魚谷さんの改革の成果を見たいところ。
魚谷さんは奈良県出身。高校は大阪・星光学院でミッション系の学校に奈良から通い、「世界を見てみたい」という気持ちをもったと青春時代を振り返る。
「ちょっと型破りの英語の先生に出会いましてね。その人の魅力で英語の勉強をしたんです」
柴田道雄という先生で、「英文法の鬼みたいな感じ。動詞の後、ingが付くとか、日本人が一番苦労するような問題で、すごい知識がおありで、『お前ら、しっかり勉強せい』とよく叱咤激励されました。わたしが米国に留学するきっかけをつくってくれた先生なんですよ」と魚谷さん。
1人の師が情熱を持って、青春期の少年に向上心を吹き込むことで、その人の人生航路が決まる。人と人のつながりが大事である。