岡山理科大学は9月5日、皮膚の最初の砦である「角化細胞」内にも舌と同一の「苦味受容体」が存在し、皮膚から侵入した有害物質を感知し、それを排出するためのシステムを起動させる重要な働きをすることを発見したと発表した。
同成果は、岡山理科大 生命科学部 生物科学科の中村元直教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国実験生物学会連合が刊行する生命科学に関する全般を扱う学術誌「FASEB BioAdvances」に掲載された。
ヒトは味覚として、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5種類を持つ。これらは、甘味、塩味、うま味が生命を維持するのに必要な成分を効率良く摂取するためであるのに対し、酸味と苦味は、どちらかというと身体にとって有毒である可能性がある物質を摂取しないようにするための防御用としての側面を持つ(酸味や苦味を感じるものでも、身体にとっていいものはいくつもある)。
どちらかというと防御用の酸味と苦味のうち、特に苦味は防御用としての側面が強く、ヒトは本能的に苦みを感じる食べ物などを忌避する(子どもは特にそれが強く、苦みに耐性のつく大人になってからでもピーマンなどの苦みのあるものが好きではないという人も少なくはない)。苦みは有害物質であることの警告になっており、その仕組みは、ヒトの舌の味細胞にある苦味受容体が食物中の有害物質を苦みとして感知するところから始まる。普段はおいしく感じる食べ物でも苦みを感じれば、何か有毒な可能性もある異物が混ざっている(または腐敗などが進んでいる)と異常を察することができ、吐き出すなどして拒絶することで、体内へ取り込んでしまうのを防ぐ役割を果たしている。
このように、食物や飲料を摂取するという役割があるため、必然的に口は有害物質が侵入する可能性が最も高いところだが、人体では他にもさまざまな場所から侵入される可能性がある。人体の多くは皮膚によって覆われているが、非常に高いバリア機能を持ってはいるが、皮膚から浸入する有害物質もある。今回の研究では、皮膚からの侵入を防ぐ目的として、皮膚にも舌にあるものと同一の苦味受容体があることが発見された。
皮膚に苦み受容体があるからといって、もちろん皮膚で苦みを感じることはない。しかし、最初の砦である角化細胞に苦味受容体を配備することで、体内に侵入した有害物質から人体を守っているのだという。人体を守るためのゲートキーパーというわけだ。苦味受容体は角化細胞内部の小胞体に局在する。この受容体は、角化細胞内部に侵入した有害物質を感知(結合)することで活性化され、排出ポンプ作動のためのスイッチをオンにすることで、有害物質を細胞外に排除するようになっている。今回の研究により、この一連の皮膚における苦味受容体の生体防御的役割を初めて明らかにされた。
また、有害物質の中には苦味受容体が感知できない物質も少なくない。こうしたケースでは有害物質は細胞内に蓄積してしまい、皮膚障害や炎症などの引き金になるという。今回の研究成果から、こうした細胞内に蓄積した有害物質は、人為的に苦味受容体を活性化して排出機構をオンにすれば、細胞外に排出できる可能性があるとする。無害で受容体を活発化できる薬剤は皮膚の保護剤や炎症治療薬として期待できるとしている。