スポンジから車のシート、断熱材まで大量生産されているポリウレタンを再利用しやすい物質に分解する触媒を、東京大学大学院工学系研究科の岩﨑孝紀准教授(有機合成化学)らが開発した。市販のクッション材を実際に分解できることも確認した。化学構造が似た物質が混じった廃プラスチックからポリウレタンのみ選択的に分解できる可能性もある。自動車産業をはじめとした各産業でリサイクル規制が厳しくなりつつある中、ケミカルリサイクルによる資源循環への応用が期待される。
ポリウレタンは反応性の高いイソシアネートと複数の水酸基(-OH)を持つアルコールであるポリオールを混合してつくる樹脂材料で、プラスチックのひとつ。製造時に発泡させればクッションや断熱材になる。衣類からスポンジ、ベッドのマットレス、自動車のシート、家電や建築現場で使う断熱材まで広く大量に利用されている。ただ、分子内に炭素と酸素の二重結合を持つカルボニル化合物の中でも反応性が低く、リサイクルしやすい原料となる化合物まで分解・精製することが難しい。
ポリウレタンの分解はニーズが高く、グリコールで煮たり、水を作用させたり、酸を使ったりするなどして水素化分解させる方法がある。しかし、一部は炭素数が多くリサイクルしやすい高級アルコールとして回収できるが、他の部分はリサイクルするには工程がかさんでしまうメタノールや二酸化炭素になるまで分解が進みすぎてしまう。
岩﨑准教授らは2023年にカルボニル化合物の中で最も反応性が低いウレアを選択的に分解する、イリジウムの周りにリンや窒素などを配置した金属錯体の触媒を発見。その構造を核に、窒素部分の酸性度に着目しながら、ウレタンを選択的に分解する触媒候補として5つほど選定。実際に精製できたもののうちの1つが、tert-ブトキシセシウムを塩基として添加すればポリウレタンをホルムアミドと高級アルコールに分解することを確認した。
実用化のステップとしてポリエステルやポリアミドといった樹脂材料とポリウレタンの2種混合物で分解を試すと、ポリウレタンを優先的に分解した。市販のポリウレタンクッション材で分解を試しても成功した。
新しい触媒は、2023年に開発した触媒同様にウレア結合や環状で安定している難分解性のイソシアヌレート環の分解にも使える結果を得た。産業応用に向けて特許取得もしており、岩﨑准教授は「反応性の序列が決まっているカルボニル化合物において、触媒によって順番を変えることができるというコンセプトは実証できた。衣服でポリウレタンがナイロンやポリエステルと一緒に使われていたり、ポリエステルがバイオ由来だったりするように、均一なポリマーではない実際の製品、廃棄物からウレタンだけ分解できることを実証できるよう、分解条件の探索や触媒の改良を考えていきたい」と話している。
研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業や日本学術振興会の科学研究費助成事業、住友財団、藤森科学技術振興財団などの支援を受けて行い、米化学会誌「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサエティー」電子版に8月8日付けで掲載された。
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