東北大学は9月3日、これまで換気の悪い屋内などで二酸化炭素(CO2)が上昇すると眠気を催すとはされていたものの、その確たる証拠がなかったが、睡眠潜時反復検査などを用いた厳密な検査を実施した結果、CO2が眠気を引き起こしている確かな証拠が得られたと発表した。

同成果は、東北大大学院 医工学研究科の稲田仁特任准教授(現・国立精神・神経医療研究センター研究員)、同・永富良一教授(現・産学連携機構)、同・金瑞年研究員らの研究チームによるもの。詳細は、環境問題に関連する全般を扱う学術誌「Environmental Research」に掲載された。

  • 室内のCO2濃度上昇は日中の眠気を引き起こすといわれてきたが、これまで正確な因果関係は不明だった。

    室内のCO2濃度上昇は日中の眠気を引き起こすといわれてきたが、これまで正確な因果関係は不明だった。厳密な測定の結果、CO2は日中の眠気を引き起こすことが確かめられた(出所:東北大プレスリリースPDF)

換気が悪く混み合った屋内や車内では、しばしば強い眠気に襲われることがある。もちろん、誰でも食事の後などは眠気を感じることがあるし、その日の体調、また個人によっては睡眠に関する障害を抱えていることなどもあるが、上述したような換気の悪い環境での眠気は、高くなったCO2濃度が原因となって眠気が引き起こされると考えられている。

2024年現在の地球大気中のCO2濃度がどれぐらいかというと、400ppm(=0.04%)以上とされている(気象庁が2024年2月現在の大気中のCO2濃度月平均の速報値として、定点観測を行っている3か所のうち、岩手県の綾里で430.3ppm(=0.04303%)、日本最東端の島である東京都小笠原村の南鳥島で426.6ppm(=0.04266%)、日本最西端の島である沖縄県の与那国島で431.3ppm(=0.04313%)と発表している)。都心部では人口も多く、自動車の交通量が多いといった理由から、また若干数値は異なると思われるが、屋外ではおおよそこのような値だという。しかし上述したような換気の悪い空間では、CO2濃度は容易に一桁多い5000ppm(=0.5%)にまで達してしまうという。そのため、健康面での安全を考慮し、日本においては建築物環境衛生管理基準では1000ppm(=0.1%)以下、事務所衛生基準規則では5000ppm以下に抑えるよう基準値が定められている。

しかし、高い環境CO2が眠気を引き起こすのかどうかについては、今のところ結論は出ていないのが実情だ。環境中のCO2濃度と日中の眠気との間の関係を厳密に測定した研究が、これまでのところ行われてこなかったためだ。そこで研究チームは今回、厳密にCO2濃度を制御した環境下で、睡眠障害の臨床的診断に使用される「睡眠潜時反復検査」を用いて、客観的な指標による日中の眠気の測定を行うことにしたとする。

睡眠潜時反復検査とは、日中の眠気を客観的に測定するための、脳波や呼吸数などの生理反応を測定する検査のことをいう。通常は日中2時間ごとに4~5回の短時間の昼寝が行われ、消灯から睡眠開始までの時間(睡眠潜時)を測定し、潜時が短いほど眠気が強いことを示す。今回の研究には11名が参加し、睡眠不足にならないように、検査前の1週間は7時間以上の十分な睡眠時間を取ることが徹底された。

その結果、日中に2時間ごとに4回行われる、各30分の検査中に5000ppmの比較的高濃度のCO2にさらされると、日中の眠気が有意に強くなることが示されたほか、主観的な眠気も有意に強くなることが示されたとした。つまり、CO2が日中の眠気を引き起こしているという、確かな証拠が得られたのである。

  • CO2に暴露されると、客観的な眠気と主観的な眠気の両方共が有意に強くなることが確認された

    CO2に暴露されると、客観的な眠気(A)と主観的な眠気(B)の両方共が有意に強くなることが確認された(出所:東北大プレスリリースPDF)

今回の研究成果は、日中の眠気に対するCO2の効果についての最終的な結論となるものであり、各法令におけるCO2濃度基準についての科学的に妥当な根拠を提供するものとする。また、CO2濃度の調節により、職場や自動車運転時に集中しやすい眠気が起こらない環境を作ったり、逆に自宅や宿泊先あるいは仮眠室などにおいて眠りやすくなる環境を作ったりするための、客観的な根拠となることが期待されるとしている。