日立製作所は(日立)は9月4~5日の2日間、同社のリアルイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2024 JAPAN」と東京国際フォーラムで開催している。4日の基調講演には執行役社長 兼 CEOの小島啓二氏が登壇。「日立がめざす現場のイノベーション」と題し、データと生成AIやメタバース技術といった最新のテクノロジーによって、さまざまな現場でイノベーションを起こしていく日立のビジョンを紹介した。
小島氏は冒頭、「日本における労働者不足の問題は深刻で、2025年には約2000万人の労働人口が減少する見通しだ。特に現場においては、若手人材の採用や熟練技術者の技術伝承が困難になってきている状況。日本だけでなく多くの国が同様の問題を抱えている」と切り出し上で、「データとテクノロジーを活用し現場にイノベーションを起こすことで、この高い壁は乗り越えられる」と述べた。
工場の組み立て作業員やトラックドライバー、医療スタッフといった「フロントラインワーカー」。日立が目指すのはフロントラインワーカーの作業の拡張だ。「フロントラインワーカーは、現場の最前線で頭脳と肉体の両方を駆使している。彼らの仕事はデジタルに置き換えることは難しいが、テクノロジーで拡張することは可能だ」と小島氏。
小島氏は、人間特有の4つの能力「思考力」「コミュニケーション力」「作業力」「五感力」は、テクノロジーで拡張できると強調した。
例えば、人間の思考力は生成AIが拡張してくれる。テキストだけでなく音声や映像など、さまざまな情報を集約・分析することで現場の判断に生かすことができる。また、5Gや6Gという高速通信技術は、離れた場所にいるフロントラインワーカー同士が緊急時でも瞬時に情報を共有できるようにするためコミュニケーション力を拡張する。
また、VRやARといった仮想技術は人間の五感力を高め、ロボティクスは現場の作業力を拡張する。小島氏は「拡張されたそれぞれの能力を統合することで、新たな価値を創造することができる」と説明した。
小島氏は具体例として、鉄道の車両設計や保守を行うフロントラインワーカーの作業判断を支援する「鉄道メタバース」という同社の技術を紹介した。これは、配線や機器のレイアウトを再現した車両をデジタル空間に構築し、メタバース上で作業内容を確認したり、作業員同士のコミュニケーションを図ったりしながら、知見の共有を行う。「直感的でスムーズなトレーニングや技術伝承が可能になる」(小島氏)とのこと。
また、生成AIによるタイムリーな情報提供も現場の生産性向上につながる。保守や点検の現場で、スマートグラスを通じてAIと連携し、情報を参照しながら作業を進行できる。
例えば、車両点検の際、ブレーキ摩耗が少し早いと感じたとしよう。そのことをAIに相談すれば「ブレーキ摩耗の要因には、レールの状態や雨が考えられます」と教えてくれる。さらに今後の天候を考慮して摩耗量をシミュレーション計算することなども可能とし、予期せぬトラブルを防ぐといった活用方法が将来的にできるようになるという。
日立は東武鉄道と共同で鉄道メタバースの実践的な活用に向け、熟練作業員のノウハウを継承するシステム開発・検証を進めている。「新人の作業者が実際のメンテナンス作業を行う前にデジタル空間の中で手順や仕組みを確認したり、不明点をベテランの作業員に聞いたりすることができる。フロントラインワーカーが輝く現場を実現していきたい」と展望を示した。
また小島氏は、半導体大手のNVIDIAやMicrosoft、Googleなど米テック大手との提携によって先端技術を自社サービスに取り込む考えも示した。ロボティクスを含むさまざまな領域でスタートアップ企業への戦略的な投資も行っている。
「大変革をチャンスと捉え、現場にイノベーションを起こしていく」と小島氏は意気込みを見せていた。