北海道大学(北大)は8月30日、廃棄ホタテ貝殻を用いて、従来の「バイオソーベント」(藻類、菌類、植物の繊維のようなバイオマスを材料とし、特定の物質を吸着・除去するための素材)と比較して、約2~4倍もの吸着容量を有する吸着剤を開発したことを発表した。
同成果は、北大大学院 水産科学研究院の丸山英男准教授によるもの。詳細は、表面/界面科学に関する全般を扱う学術誌「Surfaces」に掲載された。
北海道の主要な一次産業である水産業では、多くの水産廃棄物が発生しているという。たとえば、北海道のホタテ生産量は日本の約9割に当たるが、2020年度の水産廃棄物年間発生量29万トンのうち、その43%(12.5万トン)をホタテ貝殻が占めている。そのため、藻類が中心ではあったが、1990年代からこうした水産廃棄物をバイオソーベントに利用する研究が盛んに行われてきた。廃棄ホタテ貝殻を利活用するさまざまな取り組みも各方面で行われており、その1つが貝殻の吸着剤への利用。
しかし、これまでの廃棄貝殻を吸着剤に利用する研究は、単に粉砕した貝殻粉末粒子や焼成貝殻粒子を吸着剤として用いたものが大半であり、表面修飾を行って吸着剤に利用した研究は多くなかったとする。そこで丸山准教授は今回、簡単に表面改変を行えるボールミル粉砕メカノケミカル反応を利用して、廃棄ホタテ貝殻破片と「シュウ酸ナトリウム」を湿式粉砕し吸着剤粒子とする廃棄貝殻吸着剤の調製を行い、モデル重金属イオンとして鉛イオン(硝酸鉛)を用いて回分式吸着実験を行うことにしたという。
今回の研究では、吸着剤の調製はボールミルポッド中に貝殻10g(カルシウム含有量0.092mol)に対し、モル比が0.5、1.0および2.0となるようにシュウ酸ナトリウムを加え、そこに蒸留水100mLも加えてボールミル粉砕が行われた(回転速度120rpm、粉砕時間24時間)。
その後、懸濁液状の粉砕粒子をビーカーに移して500mLの蒸留水を加えて10分間撹拌し、その後遠心分離(3000rpm、10分)で粒子を回収、再度500mLの蒸留水中に分散させ、同様の洗浄操作が3回実施された。そして遠心分離で回収し、60℃の恒温槽中で乾燥させ、吸着実験に活用。鉛イオンをモデル金属イオンとする吸着実験は、すべて回分式で行われた。
大半の実験において、液相体積100mL、吸着剤量0.02g、鉛イオン初期濃度3.0×10-3mol/L、初期液相pH4.95~5.05という条件で行われた。そして、所定の時間経過後に固液分離が行われ、液相鉛イオン濃度が原子吸光光度計で定量され、その濃度変化から吸着量が決定された。
鉛イオンを用いた回分式吸着実験の結果、吸着速度と吸着平衡関係は共にラングミュア型吸着速度式および吸着等温式でよく説明できることが確認されたという。また、既報のバイオソーベントによる鉛吸着量は焼成貝殻吸着剤で1.33mmol/g、オオイタドリ由来吸着剤で1.22mmol/gなどと報告されており、今回の研究では5.45~6.23mmol/gであることから、非常に高い吸着容量を持つことが判明した。均一な吸着サイトとの可逆反応に基づいたラングミュア型吸着の速度式と等温式によく従うことは、カルボキシル基の修飾により、カルボキシル基が均一な吸着サイトとみなせるほど優先的に貝殻表面に存在していることが示唆されたとした。
今回の研究で開発した吸着剤は、従来の2~4倍の吸着容量を有しており、少量の使用でも十分な重金属イオンの吸着除去・回収に利用できることが期待されるという。なお、何種類かのジカルボン酸塩を用いて同様の調製方法で、カルボキシル基を表面に修飾可能であることも確認できていることから、研究チームは今後、用いたジカルボン酸塩によって吸着容量に違いが生じるかなどの詳細な実験的検討を考えているとした。また、吸着剤以外の用途についても検討する予定としている。