両備システムズは9月2日、オンラインとオフラインのハイブリッドでICT事業の進捗と今後の展望について説明会を開催した。両備システムズ 代表取締役COOの小野田吉孝氏が説明に立った。
中期経営計画の進捗
今回の説明会では今年1月に公表された「中期経営計画2024~2026」の進捗状況について語られた。同社は、両備ホールディングス傘下においてシンク、ドリームゲート、マックスシステム、ラオスのRyobi LaoなどとICT部門を担い、投資運用会社としてRyobi AlgoTech Capitalを持つ。公共に加え、医療、社会保障分野、民間企業向け情報サービスの提供、システム構築、データセンター事業、クラウドサービス事業、セキュリティ事業を手がけている。
1月の説明会で小野田氏は「自治体システムの標準化やガバメントクラウド後のビジネス構築、民需ビジネスを推進できる組織体制、そして組織を横断したクラウドビジネスの強化を図り、事業方針としては公共系、民需系、クラウド系の3つの分野に注力していく」と決意を語っていた。
これら3分野における各施策により、中期経営計画の最終年度である2026年度に売上高446億円を計画している。
一方で長期ビジョンでは2030年までに売上高500億円を目標としており、2021年~2023年を統合・変革期、2024年~2026年を浸透・推進期、2027年~2030年は達成目前期としている。現状では、浸透・推進期として2階建てビジネスの伸長やM&Aによる事業拡充を進めている。
小野田氏は、半年間を振り返り「自治体システムの標準化は今年から2026年まで続くため成長は期待できるが、その後は公共系のビジネスがトーンダウンすることが見込まれるため、民需系とクラウド系の強化を進めている」と述べた。
5つの重点施策
現在、同社が取り組んでいること施策は以下の5つだ。
自治体システム標準化の影響
自治体システムの標準化への取り組みと、省庁ビジネス、医療・健康ビジネスの拡大民需事業の拡大
製造・流通、運輸・交通、物流・倉庫内分野のシステムをクラウドサービスとして販売拡大セキュリティ、クラウド事業の拡大
各省庁から出るガイドラインにより進む多要素認証と、閉域ネットワーク環境でセキュアなBPO(Business Process Outsourcing)サービスグローバル展開
ラオスにおけるデジタルID事業調査から実証事業へ新規事業(技術)への挑戦
生成AIを製品・サービスに導入。メディカルAIやFinTechの実用化に向けて準備中
自治体システム標準化後を見据えた取り組み
まずは自治体システム標準化の影響に関して。自治体システムの標準化は、地方公共団体の基幹系20業務システムを2025年度までに、ガバメントクラウド上に構築された標準準拠システムに移行すること。
同社は健康管理システム「健康かるて」で対応しているほか、グループ会社のシンクが税務システムとして債権一元管理滞納整理システム「THINK CreMas Cloud」で対応している。2025年から2026年にガバクラの事業本格化が見込まれているが、ピーク自体は当初の2026年から2025年に前倒しを見込んでいる。
現在は、707団体に導入している健康かるてを900団体、372団体に導入しているTHINK CreMas Cloudを700団体にそれぞれ増加させることを計画。また、これまで健診機関向けソリューションは予約から問診回答を行う「AITEL」、健診データ収集システム「Smart J One」、健康経営・健康管理支援システム「SASAWELL」の3つのソリューションを提供していたが、今後はこれら3つ健診機関向けソリューションとして「WELL SHIPシリーズ」に統合を検討している。
民需はファッション・アパレル業向けと物流向けソリューションに注力
民需事業の拡大については、これまでエリア戦略は岡山と中四国で展開し、事業戦略はSI系の直販ビジネスとしていたが、エリアは全国を対象に広げ、プロダクト系ビジネスへの転換を図る。
グループ会社であるドリームゲートが提供する生産、販売、物流、小売業務を行うファッション・アパレル業向け統合システム「Sunny-Side」を強化。
2024年末までに倉庫管理システム「Sunny-Side for WMS Option」が完成を予定し、2026年度までに導入数を卸販売・生産管理を行う「Sunny-Side for Sales/Maker」を現状の4件から10件、小売販売の「Sunny-Side for Retail」を16ユーザー(134ブランド)から27ユーザー(150ブランド)にそれぞれ拡大していく。
さらに、物流向けソリューションの展開ではバース入場管理システム「R-Teams」を現在の4施設から15施設、駐車場管理システム「IT-Parking」を14施設から30施設、出荷準備などをAIカウントツール「CountShot」を1施設から25施設に拡充する方針だ。これらの施策により、荷待ち・荷役などの時間を30%(最大60%)の削減を目指す。
8月末にはロジスティードソリューションズ(LDS)が提供する仕入先から倉庫、納入先までをオールインワンで対応した倉庫管理システム「ONEsLOGI」について、販売に加え、同社の支援を受けて設計や開発を行う。
両備システムズ 執行役員 営業本部 民需営業統括部 統括部長の橋本渉氏は「LDSさんからはシステム導入を支援してもらい、当社は自社のデータセンターでシステムを提供し、要件定義以降の開発から導入にいたるまでサービスを展開していく。また、当社のソリューションに関してもLDSさんに展開してもらう形になっている」と説明した。
同氏は「調達から生産、在庫管理、物流センター、輸配送、静脈物流まで、すべてを当社だけでカバーすることは難しいため、ポイントポイントでパートナーさんと協力しながら展開する。アパレルの製造・流通で展開している当社の基幹システムと親和性が高い分野に絞り、進めることで業務・生産性の向上を目指す。さらに、将来的には経営分析などを可能とするBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを兼ね備えた、物流統合システムを提供できればと考えている」と力を込めた。
セキュリティ、クラウド事業の拡大
セキュリティ、クラウド事業では多要素認証ソリューション「ARCACLAVIS」シリーズを中心とした施策に取り組み、8月にパナソニック コネクトと多要素認証システムと認証テクノロジーを連携させたソリューションで共創を開始することを発表。
加えて、同22日には最新版の「ARCACLAVIS NEXT V2.0」をリリースし、スマートフォンを利用したワンタイムパスワード認証を追加した。
また、給付金支援包括BPOサービスを強化する。給付事務を円滑に行うため書類送付や審査、問い合わせ対応、二重給付チェック、そのほかの事務に関するものを一括管理し、閉域ネットワーク環境におけるセキュアな業務管理を実現するという。
グローバル展開はラオスでデジタルIDの導入に向けた実証
グローバル展開については海外子会社のRyobi Laoによる、ラオスのデジタルIDについて今年3月に調査事業を完了しており、8月から実証試験を開始。首都のビエンチャン特別市内で現地の通信事業者の営業拠点選定や、政府機関をはじめとした関係者の協力体制を確立し、ラオス語化したID登録システムを構築。
ラオス国民の基本情報、生体情報(顔情報)を登録し、政府職員(システム管理者)がデジタルIDの登録・利用状況を確認することができるシステムを構築する。
現地通信事業者の営業拠点で現地窓靴を設け、現地スタッフによるデジタルIT登録を行う運用を実施し、運用業務面やシステム面を検証。ラオス国民、窓口職員、政府職員にヒアリングを行い、複数の視点からシステムの操作や機能などの課題整理、検証を実施する。
新規事業への挑戦
新規事業への挑戦では、生成AIを製品・サービスへの組み込みとして、8月に自体向けグループウェアシステム「公開羅針盤V4」で生成AIの利用が可能な「AIチャットサービス」が愛媛県宇和島市で稼働し、同システムの「問合わせAIサービス」の提供を開始。
また、メディカルAIとして2022年に炎症性腸疾患関連腫瘍AI診断システムを開発し、今年3月には早期胃がん深度AI診断支援システムを開発し、オージー技研による医療機器製造販売承認を取得。そして、同7月に岡山大学病院と胆道がんAI診断支援システムの開発を発表しており、早期胃がん深度AI支援システムについては、2024年度内の事業化に向けて準備を進めている。
さらに、FinTechでは2022年から為替市場の分析・予測や各取引戦略の正誤判断、運用ポートフォリオのリスク管理、金融市場の変化に対応したアルゴリズムの更新まで一貫した運用システムを実装し、インハウスでの運用を開始。2025年にAI運用による為替ヘッジファンドの設立を計画している。