岸田首相退陣で求められる〝国難突破〟のリーダーシップ

約3年務めた岸田文雄首相が退陣を表明した。党の裏金問題の責任を取った形だ。「政治家の意地」に言及したところをみると、「きちんと成果を挙げてきたのに……」という未練が見え隠れする。

 岸田首相の功績は大きいという声は根強い。2022年末に防衛費を5年間で43兆円に大幅増額し、中国や北朝鮮を念頭に反撃能力の保有を含めた安全保障3文書を決定した。歴代最長政権の安倍晋三元首相さえ実現できなかったことだ。

 外交では、被爆地・広島で先進7カ国首脳会議(広島G7サミット)を開催。核保有国を含むG7の首脳に加え、ロシアの侵略を受けるウクライナのゼレンスキー大統領を招き、混迷する国際社会のリード役となった。

 また、原発再稼働を進め、東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出も実現。経済でも、結果として史上最高値の株価や、大幅な賃上げもあった。

 一方、課題も積み残した。賃上げや数々の補助政策をしのぐ勢いで円安や物価高が進み、国民生活が安定しているとの実感は乏しい。就任当初に掲げた「新しい資本主義」も、理念が浸透しないままうやむやになった。「次元の異なる少子化対策」を打ち出し、関連法を成立させて子育て予算などを手厚くしたが、道半ば。増額する防衛費の財源として、所得税や法人税、たばこ税を増税する構えだったが、結論は先送りされている。

 問題は「ポスト岸田」である。先に挙げた積み残しの課題の解決は、誰であっても至難の業だ。11月に行われる米大統領選の結果で国際情勢も大きく変わってくることは間違いない。

 次期首相には、こうした国内外の困難に確実に答えを出せるリーダーシップが必要となる。何よりも岸田首相退陣のきっかけとなった「政治とカネ」の問題への対応は中途半端で、国民の信頼を得るための改革が欠かせない。自民党全体の信頼失墜の危機を突破する気概も求められるだろう。

 憲法改正、安全保障、少子化といった課題がある中で成長をどう図るか。新政権には、時に痛みを伴う実行に向けた覚悟が求められる。

【政界】退陣不可避論が広まる岸田政権 求められる政策重視の自民党総裁選