島原佑基・医療AI推進機構 機構長が語る「人生の転機」とは?

わたしは学生時代に生物学、特に遺伝子工学や生物画像解析の研究を行っていました。簡単に言えば、19世紀は化学が発展した時代、20世紀は家電や自動車などの機械化が進み、物理が発展した時代でした。そして、21世紀は人工生物や臓器を作るような生物をエンジニアリングする時代が来ると考えていました。

 ちょうどこの頃、2012年頃にAI(人工知能)ブームが起こり、人間よりもAIの方が猫の画像の判別能力が高くなったことが注目を集めました。やはり、画像認識や画像分類というのはAIの得意領域ですから、生物をエンジニアリングするためには、医療にAIを活用した方がいいと。

 そこでわたしは研究室のメンバーと共に2014年に、医療や創薬分野で画像解析AI(人工知能)事業を手掛けるエルピクセルを立ち上げました。

 やはり、人間は時にはミスをすることもあるし、たとえ、優秀な医師であっても疲れた時には判断を間違えることもある。そういう時にAIを活用すれば非常に便利ではないかと。人間は人間にしかできないことをやればいいのであって、便利なAIというテクノロジーをうまく活用していくことで、医療の世界も新たなステージに入ることができるのではないかと考えたのです。

 そこで医療AIのアプリベンダーとして、医療機器の開発に携わってきたのですが、この約10年間に感じたことは法規制の緩和や医療データの利活用といった対応が、米国や韓国に比べて、日本はまだまだ遅れているということでした。データベースの使いやすさも、規模も、予算も桁が違います。保護の観点を大切にしつつ、利活用目線のインセンティブ強化にも課題があります。

 データの有効活用と法規制への対応、市場経済では限界があることなど、医療AIの普及へ向け、課題は山積しています。ですから、国がやらないなら、有志を集めてやろう。そういう気持ちで2023年11月に立ち上げたのが医療AI推進機構です。

 われわれがやりたいのは、商用利用を前提としたデータベースをつくること。そして、スタートアップを含めた医療機器ベンダーやITベンチャーに提供する。おかげさまで、協力したいと言っていただける医療機関も増えてきましたので、今は期待半分、課題半分のような感じです。

 法人の規模としてはまだまだ小さな存在ですが、社会にうねりを起こすことはできる。われわれが変化の先頭に立って、日本の医療の質の向上につとめていきたいと考えています。

【著者に聞く】『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』AIメディカルサービス代表取締役CEO・医師・多田智裕