塩基性の環境下では安定して存在し、酸性にすると割れて内部の気体を放出する「ガスマーブル」と呼ばれるシャボン玉の開発に大阪工業大学の研究グループが成功した。界面活性剤の代わりに高分子粒子を水膜に吸着させて作製する。この手法を用いて、シナモンの粒子を使ったシャボン玉を開発した。ケーキなどに用いて噛んだときの食感や音も楽しめる。化粧品の香りなどへの応用も期待できるという。

大阪工業大学工学部応用化学科の藤井秀司教授(界面コロイド化学・高分子化学)らの研究グループは様々な気泡についての研究を進めており、これまでに水素イオン濃度を表すpHや温度等の条件によって、気泡の安定性が変化することを見つけていた。

 その中で、シャボン玉を微粒子で安定化させる方法を考えてきた。一般的にシャボン玉の安定化には洗剤に含まれる界面活性剤分子が使用されるが、アレルギー反応の原因になり得るという問題がある。そこで藤井教授は、高分子粒子であり、pHによって水へのなじみやすさをコントロールできる特殊な塩基性のポリスチレン粒子でシャボン玉の水膜の表面を覆う方法を思いついた。

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    今回の研究成果を図にしたもの。酸性にすることで高分子粒子がシャボン玉の表面からはずれ、中の空気が飛び出す(大阪工業大学提供)

まず、シャーレに水を張り、そこに乾燥したポリスチレン粒子をふりかけ、水面を粒子で覆った。次いで、魚を飼う水槽のように空気の気泡を水中に送り込むと、粒子で覆われた水面まで気泡が浮上する。その気泡を粒子で覆われた水面上で転がすと、球状のガスマーブルができあがる。このポリスチレン粒子は、表面の親水性と疎水性のバランスをpHによってコントロールできる性質を持つ。ガスマーブルは、pHが3~4(酸性)であれば瞬時に割れて内部の空気を放出するが、pH9~10(アルカリ性)のときは2時間程度安定した状態を保てる。

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    ガスマーブルが割れるまでの時間をグラフにしたもの。酸性ほど素早く割れ、アルカリ性に近づくと長時間形状を保つことができる(大阪工業大学の藤井秀司教授提供)

完成したガスマーブルの表面構造を電子顕微鏡で観察したところ、ポリスチレン粒子が凝集しているところと、一層でくっついているところがあり、表面には凹凸があることが確認できた。粒子の膜がガスマーブルを覆っていることから、水面や固体の上を転がすことができ、「水陸両用」になっていることも分かった。

藤井教授はこうした仕組みを食品の香り付けに応用できると考え、食べることのできるガスマーブルの作製に取り組んだ。シナモン粒子を安定化剤として使うとガスマーブルは水が蒸発しても割れずに球体を維持し、長期保存することにも成功した。液体として水ではなく牛乳や豆乳、コーヒーを用いて作ってみると、いずれも球体の形状を長期間保った。とりわけ、牛乳でできたガスマーブルは頑丈なため、歯で噛むとカリッと音がして、シナモンの香りも食感も楽しめる「おいしいとこ取り」ができる。

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    藤井教授が実用化のために開発した食べられるガスマーブル。シナモンでガスマーブルが安定化されている(大阪工業大学提供)

藤井教授は「空気は熱を伝えにくいので、断熱材などにも応用できるのではないか。どのような粒子を用いるとガスマーブルが安定化できるのか、今後も検討を続けたい。将来的には温度や光、圧力の変化でガスマーブルが割れるような手法も開発していきたい」とした。食品以外にも、化粧品やヘアケア用品への実用化を考えているという。

両研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業の助成を受けて行われた。酸性のシャボン玉の成果はドイツの科学誌「アドバンスド サイエンス」電子版に6月25日に掲載され、大阪工業大学が7月10日に発表した。シナモンのシャボン玉の成果はドイツの科学誌「アドバンスド ファンクショナル マテリアルズ」電子版に8月6日に掲載され、同大が同月21日に発表した。

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