コバーズキッズ会長兼CEO・小林幸典「0~5歳の子を持つ親に『子育ては楽しい』ということを伝える教育の実践を」

国づくりのために人づくりが必要─。今、株式会社による保育園の運営を手掛けるコバーズキッズ(山梨県甲斐市)。「甲斐ひよこ保育園・ひよこ保育園」を運営する同社会長兼CEOの小林幸典氏は「自己肯定感」を高める教育を展開している。さらには「0~5歳の間に保護者も一緒に教育することが大事」として、子育てに悩む親への教育も行っている。小林氏が経営の視点で考える保育の姿とは─。

保育、教育の一体化が進まない現状

 ─ 少子化の中で、株式会社による保育園の運営を手掛ける小林さんの立場で、今課題と感じていることは何ですか。

 小林 この急激な少子化や人口減に打つ手があるのか?

 その要因の一つには、日本の幼児期の制度・構造が戦後74年目の今年、先生1人に対し子ども30人が、わずか25人に変わるという遅さです。先進国では先生1人に10人以下が普通で日本の過酷さが際立ちます。

 安心出来る保育・幼児教育体制がない中で「不適切保育事件の多発や保育士の集団退職で閉園騒ぎの環境」に安心して子育てが出来るはずがありません。国、自治体、保育業界や政治が劇的に安心出来る制度、構造に思い切って変革しないと、更に出産を躊躇する夫婦やその予備軍も不安を抱いて安心できないと保護者達は口にしています。

 そこに、0~5歳までの幼児期の制度が一体化されていないことは最大の課題だと考えています。幼稚園が文部科学省、保育園が厚生労働省、認定こども園が内閣府の管轄だったところから、保育園と認定こども園だけが子ども家庭庁に移っただけで、未だに一体化されていないのです。

 小学校、中学校、高等学校、大学の6・3・3・4制は階段を上るよう青年期へと人を育てていますが0~5歳の脳が90%まで完成する人生で一番大切な幼児期の保育、幼児教育が園任せで国の指針と実態は乖離しています。

 つまり、保育園は、「保育所保育指針」、認定こども園は「認定こども園教育・保育要領」幼稚園は「幼稚園教育要領」という指導指針にて三者同じ目標の、「3つの柱」「10の姿」を卒園までに身に付けるようにと国は求めています。

 しかし、指針の理解と実践方法は保育園、認定こども園、幼稚園の各現場任せで、目指す姿の到達度合いも具体的に把握する術もバラバラでは、国は子どもをどう育てたいのかが見えない。つまり、言い放しで確認なしの曖昧な取り組みになっているのです。

 ─ お題目を並べてはいるけれども、そのチェック体制がないと。

 小林 そうなんです。一般に保育園は預けるところ、幼稚園は教育するところと言っていた時のニーズとは大きく変わり、全国の夫婦共働き世帯が75.5%と大幅増加している現在は、預け先となっている保育園のニーズは高い。

 一方、保育園側は、いまだに昭和の預かる保育の遊び中心で教育への対応が疎かで「小1プロブレム」と称する小学校に馴染めなく落ち着きのない子どもが増えている現象が出ています。学校に馴染めない子どもを防ぐには子どもの成長を促す「3つの柱」で「10の姿」への取り組みが重要です。国、自治体の真摯な「質」への取り組み状況の確認と指導を絶対条件とすべきです。

 ─ 預かるだけになってしまっているということですね。

 小林 ええ。ですから、各園の理念に基づく保育、幼児教育の仕組みと「3つの柱」「10の姿」への子どもの成長への実践力が求められています。

 そこで当園のパーパスは「きみが大人になったとき自分を信じて前に進むことができるように」と30歳時点の活躍を想定した生きる力の「自己肯定感を高める園児を育む」を最も大切と考え取り組んでいます。

 始めてから6年目になりますが、昨年度には幼児教育雑誌からアワードをいただくなど、様々なご評価をいただけるようになりました。

 保育・幼児教育の「質」の維持・向上に4つの価値提供の取り組みがあります。1つ目が「自己肯定感を高める園児を育む」、2つ目が「就学前教育の実践が小学校での成長の基礎作り」、3つ目が「ICTによる働き方改革」、4つ目が「SDGsに取り組む保育園」で、それに対する保護者満足度は大変満足72%、やや満足17%で取り組みに一定の評価をいただいています。

 また、これらの活動は民放及び公共テレビ番組で取り上げていただいたことも大きかったですね。行政や保育業界からの反応もありましたが、何より保護者の方々から「保育士はこんなに大変なのか」という反応があったことが大きかったですね。

 保護者の方々は日常の活動を見ることができませんから、言うことを聞かない子ども達にどう対応しているのかを見て「すごい」というお声をいただくことが多かったことと、園児がいつも明るく笑顔で楽しんでいる、それは保育士が明るく笑いのある楽しい保育だから楽しんで取り組めるんだと言う声は嬉しい。

祖父母も含めたファミリーで教育を

 ─ 親への教育も早期に始めた方がいいと。

 小林 保護者には、園児もいれば小学生、中学生もいますから家族ぐるみで成長していく取組みが大切ですね。

 初めて子どもを持った時にほとんどを自分の両親から教わった通りにする人が多く、教科書のようなものがないのが現状です。教え方にしても、日本は「叱る」が先に来るネガティブな教育になる傾向が強いですが、欧米は「褒める」が先に来るポジティブな教育をします。

 そこで、当園では今年度から、親が子どもに前向きになる言葉がけなどを学ぶ「ママパパ子育て心理学講座」を、専門講師が年5回夜の時間にリモートで90分参加型の講座をしています。これは、目から鱗が取れた思いで凄い。なぜか、前向きでポジティブな言葉がけで子どもの行動や考えに変化が出ています。

 子育ては苦痛ではなく「子育ては楽しいものだ、家族で楽しむものだ」と伝えたいし。この講座は、産み育てる環境づくりに非常に役立ち全国のママパパがこれらの講座を聞くことで「産み育てることの喜び」が得られ子育てに革新が起きたと声を大にして言いたいですね。騙されたと思って一度参加してみて下さい。

 そして、この講座の最終回は、一堂に会して性教育を行います。日本では、小さい頃からの正しい性教育がなされていないために、子どもから聞かれても保護者は隠したり逃げたりしています。親は学校で教えてくれれば良いのにと思っています。なぜ、子どもが生まれるのか?といった性教育について、最初からきちんと教えておいた方が、子どもが健全に育つという観点から実施します。

 前向きなポジティブな言葉がけが少子化の中で、将来不安があるから出産を控えてしまうと言われますが、私は「子育ては楽しいものなんですよ」ということを子育て心理学講座から教えてあげたいと思っています。

 そして保護者に「パパとママの家族だけでなく、おじいちゃん、おばあちゃんも含めたファミリーで楽しく子育てをするんですよ」と伝えています。

 ─ 祖父母と離れて暮らす家庭も多いですが、どのように対応していますか。

 小林 当園では子どもの保育風景写真も見ることができるスマホ連絡帳があるのですが、これをおじいちゃん、おばあちゃんもパパママの了解を得れば見ることができるようにしています。

 そして年に1回、おじいちゃん、おばあちゃんのための子どもの生活発表会も開催していますが、全国から来訪されます。孫はかわいくて仕方がないでしょうから、発表会を見ると涙を流されます。ここに「生きていてよかった」という思いがある。ですから子育てはファミリーで行う、みんなで人生を楽しみましょうということをメッセージとして伝えています。

 他にSDGsの活動でお散歩の時間を使って、近隣の2軒の老人ホームを散歩コースに組み入れて子どもたちが訪ねるという取り組みもありますが、これも非常に喜ばれています。

 ─ 地域との一体感も出てきますね。

 小林 そうなんです。保育園には地域を和やかにするという役割を持っています。老人ホームを訪問する取り組みでは、おじいちゃん、おばあちゃんが生き生きします。一方、子ども達はおじいちゃん、おばあちゃんには優しくするのが当たり前という環境で育ちます。

 しかも、当園では0歳児から英会話大手・ECCとの連携で英会話をやっていることもあり、座って視聴することから始めるので自然と人の話を聞く姿勢が抜群にできているんです。

 今、多くの小学校で、特に低学年で学級崩壊が起きていますが、先生の言うことが聞けず、授業中に歩き回る子が増えているんです。これは0~5歳時の段階できちんとしたしつけができていないことが要因の1つです。

 園にもよりますが、しつけというと子どもを大声で叱りますが、動かなければ更に強く怒ることになってしまう。そうした子ども達が小学校に入ると、先生方が強制することもありませんから、自由気ままに弾けてしまうのです。

 ─ 冒頭にお話された、0~5歳の教育に空白があるということの1つの表れですね。

 小林 そうです。日本では教育の「線」がつながっていないんです。欧米では0歳児から大学まで、一気通貫で方針が出来ていますが、日本はそうではありません。例えば欧米は小学校の敷地内に「キンダーガーデン」があり、1年間準備をしてから小学校に入っていくんです。

 日本では、昨日まで自由に遊んでいた子ども達が、4月1日には小学校に入って「座って先生の話を聞きなさい」と言われますが、最初は聞けないんです。ですからカリキュラムがあっても遅れてしまう。これは仕組みの矛盾だと思います。

アメリカが先行する「人材への投資」

 ─ 0~5歳の間の教育が非常に重要だということですね。

 小林 重要です。大事なのは人材を育てるストーリーです。アメリカでどういう人材を育てるかというと、社会に貢献できる人材です。そうして育った人材は、自分が得た利益を社会に還元しなさいという考え方です。日本では今、こうした考え方が崩れてしまっている。

 ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者・シカゴ大学ジェームズ・ヘックマン教授は「5歳までの教育が、人の一生を左右する」こと、生きる力を身につけるために何をしたらいいのかということを、実証実験に基づいて経済理論として打ち立てました。

 この理論では、国はどういう形で子ども達に対して投資をするか、それが社会の成果にどう結びつくかを検証しています。

 幼児教育をしっかり行うことで犯罪率が下がり、社会へのマイナス影響を小さくすることができる、だから投資が必要なのだということを示している。日本では若い時に投資をすることで、社会に有益な人材が育つという考え方を持つことができていません。

 ─ かつての日本には、そうした考え方があったと思いますが、それが失われてしまった。

 小林 明治期の日本では、諸外国を見て、「国づくりは人づくり」だということで、福澤諭吉さん、大隈重信さんなどは取り組んできたのだと思います。今の日本は明治期のような人づくりを諸外国に学ぶべきではないのでしょうか?そして人財ビジョンがないのも寂しい。

 今、こども家庭庁は全国47都道府県と1700自治体に対して、こども大綱に基づく「こども計画」を1年間でつくるように要請しています。

 この計画に例えば、大学を卒業した後、それぞれの地域に人が帰ってきて働いてくれれば、活性化と共に税収が上がります。その地域で子どもに投資をしたことが返ってくる仕組みづくりです。

 生まれ育った地元に若者が戻る政策です。それが地域の活性化を促し産業経済・社会整備・地域資源の見直しや掘り起こしで働く場の創出と共に若者の起業がしやすい政策と資金を含めた制度設計が欲しいですね。若者の活力は、文化・芸術・音楽・伝統文化・街づくりなど様々な取込む構想に若者を入れて欲しいと提案します。

 ─ 改めて、小林さんがリコージャパンを退職した後、保育事業を手掛けようと考えた動機は何でしたか。

 小林 京セラ創業者の稲盛和夫さんが言われたような「利他の心」つまり「世のため人のため」に役立つ事がしたいと考え、保育士である妻と未来型の保育園を創りたいと始めました。

 まずは、保育園で働く人達の「待遇改革」と「働き方改革」です。余りにも酷い所得と働く環境に、なぜ業界が本気で立ち上がらないのか?ここから始めたい。これが私の使命と考えています。