「経営と現場が乖離している。何よりも経営の判断が遅すぎる」─。小林製薬の紅麹問題を巡り、ガバナンスの専門家からはこんな声が上がる。会長の小林一雅氏と社長の小林章浩氏が8月8日付で辞任し、後任の社長には専務の山根聡氏が就く。非創業家からの社長は初だ。
前出の専門家は「情報開示を含めて同社の一連の対応には危機管理に対する意識が乏しいと言わざるを得ない」と指摘し、「創業家の顔色ばかりをうかがう企業体質が炙り出されている」と話す。これまでも死亡者数の公表など情報公開に対して積極的ではなかった上に今回の社長交代でも記者会見は開かなかった。理由について「報道発表文に伝えたい内容は全て盛り込んでいる」と説明する。
危機管理の面でも対応は不十分。同社の規定では、重大な製品事故や大規模な回収が予想される場合、社長を本部長とする危機管理本部の設置が定められている。しかし、社長の章浩氏は設置しなかった。「有事における危機管理のあり方として疑問」(外部弁護士で作る事実検証委員会の調査報告書)だ。
現場でも消費者視点を欠いた対応が明らかになっている。一昨年、紅麹成分入りのサプリメントを製造する大阪工場で有害物質の原因とみられる青カビの発生が認識されていたが、品質管理担当者は「青カビはある程度は混じることがある」とした。
100年以上の歴史を持つ小林製薬は6代連続で創業家出身者が社長を務めた。中でも一雅氏は4代目として同社を医療品の卸会社から消費財を手がけるメーカーへと変革させた。だが、「事業の領域が人の命に関わる食品に変わる中で、従業員の意識や企業に求められる緊張感が醸成されていない」と食品メーカー幹部は指摘する。
新社長に就任する山根氏は事件発端時、取締役を務めていた。また、「一雅氏の息がかかっている人物」(関係者)と言われる。取締役会議長に社外取締役を起用することをはじめ、山根氏には経営と現場の両方に改革のメスを入れる気概が求められる。