中国との距離感に悩む日鉄を横目にトランプ氏の影響はアジアに及ぶ。台湾に関する発言が波紋を呼んでいるからだ。
米ブルームバーグ通信が7月16日に掲載したインタビュー記事で、トランプ氏は台湾について「米国の半導体ビジネスの全てを奪った。台湾は非常に豊かになった」との見解を表明。一連の発言をリスクと見なした投資家によって半導体関連株は同月中旬に大きく売られた。
株式市場がトランプ発言に敏感に反応した背景には、銃撃を受けても「強い指導者」という印象を有権者に与えたことが挙げられる。同インタビューでは「台湾は(米国から)9500マイル離れている」とも指摘。米国が台湾への関与を弱めると受け止めかねられない発言を受け、世界最大の半導体受託生産会社・台湾積体電路製造(TSMC)株は軟調に推移。顧客である米半導体大手のエヌビディアなども連れ安となった。
TSMCのCEO・魏哲家氏は7月18日の決算会見でトランプ発言の受け止めを問われると、「海外工場の拡張計画に変更はない。(米西部)アリゾナ州、熊本の拡張を続け、将来的には欧州もだ」と説明。一方、脱炭素化に消極的で石油採掘に熱心なトランプ氏の大統領選勝利をにらみ、シェブロンやエクソンモービルは買われた。ただ、こうしたトランプ相場は数日で剥落した。同氏も安閑としていられない状況となっている。
米中対立を背景に米国が内向きになり、自国最優先で動く中、日本企業はもちろん、欧州やアジア各国を含めた世界の企業がその動向に翻弄されている。
一方で中国との関係では日本企業が同国から撤退する動きも出てきている。だが、中国は日本にとっての最大の貿易相手国。政治的には対立しながらも、経済水脈でどう関係をつないでいくか。極めてナーバスな状況が続く。政治が無責任である中で、日中間のパイプを〝つなぐ〟のは経済人の役割だ。「言うべきは言い、対話の道を残していく」ことが経済人に求められている。